書に耽る猿たち

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『十二人の手紙』井上ひさし/極上の漫才や落語を思わせる

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『十二人の手紙』井上ひさし

中公文庫 2020.9.6読了

 

上ひさしさんの本を読むたびに、なんて上手いんだろうといつも唸らさせる。ストーリーもさることながら、日本語一つ一つの言葉や文の技巧が際立ち、お手本となるような文章なのだ。まるで国語の教科書に載るような。

の作品には12の短編が収められている。タイトルの通り、全てが「手紙」という形で構成されているのだ。往復書簡のものもあるが、中には一方通行の手紙や公式の書類(出生届、婚姻届など)だけというものもある。ミステリ要素もあるが、どちらかというと極上の漫才や落語を聴いているような感覚だ。なるほど、そうきたか!と。

代はメールやLINEが主な通信手段となっているから、手紙を送ることは普段はほとんどないだろう。そもそも字を書くという行為が減っている。手紙は「便箋封筒を選ぶところから始まり、悩みながら書いて、封をして切手を貼ってポストに投函」という一連の流れがなんとも良かったのになぁ。時間をかけることで相手への気持ちが更に深まり、気づかなかった自分の本心に気付く。今は全てに効率を求めるあまり人間力が希薄になってきているように思う。

年あたりからこの本は、井上ひさしさん没後10年として書店のコーナーに取り上げられている。井上ひさしさんは戯曲家、放送作家であり小説家である。小説だと直木賞受賞作『手鎖心中』や『吉里吉里人』などが代表作として有名だ。ずっと前から読みたいと気になっているのは、地道に歩き続け地図を作った伊能忠敬を描いた『四千万歩の男』だ。

上ひさしさんは「日本語を大切にし、難しいことは易しく、悲惨な出来事は滑稽に、馬鹿馬鹿しいことは大真面目に書く」という姿勢を貫いた作家だそう。確かに、井上さんの本を読むと元気になる気がする。日本が生んだ素晴らしい作家の1人、作品数は膨大でまだ未読のものも多いから少しずつ読んでいこう。