書に耽る猿たち

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『首里の馬』高山羽根子/孤独に羽ばたく

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首里の馬』高山羽根子

新潮社 2020.9.13読了

 

だ記憶に新しい、第163回芥川賞受賞作。同時受賞は遠野遥さんの『破局』、直木賞馳星周さんの『少年と犬』だ。どれを読もうか考えていて、馳星周さんの作品は過去に何冊か読んだことあるし、では知らない作家さんかなと思い書店でパラパラとめくり、なんとなく高山さんの作品を読むことにした。

イトルに首里とあるくらいだから、沖縄の話である。主人公である未名子は、小さい頃から人と交わることが苦手で学校も休みがち。それを見兼ねた父親が、郷土資料館に連れて行った。未名子は、資料館長の順(より)さんの集めた資料を見ることで「自分のまわりにいる人たちやひとの作った全部のものが、ずっと先に生きる新しい人たちのあしもとのほんのひと欠片になることもある」と考えて人間に興味を持ち始める。

い郷土資料館で多くの物を確認しインデックスをつけ、SDカードに保存していくという(半分趣味の)作業をする傍ら、未名子の本来の仕事は、どこか遠くの国の人へオンラインでクイズを出すというものだ。不思議な仕事だが現代にはあり得なくもないような。1人事務所でパソコンと向かい合い孤独に見えるけれど、オンラインで誰かとは繋がっている。SNSなんてその延長ではないか?

当にここ最近の文学作品は、孤独な人が描かれることが多いように思う。それだけ生身の人間と交わる機会が減っているからだ。結局人間は元来孤独な生き物であって、「孤独を楽しめるか」が「良い生き方」に繋がるのではないかと最近思う。

思議な読後感だ。まぁ、芥川賞をはじめとした純文学作品にありがちな。現代の作品らしいと思うが幻想的かつSFな感じもあり、馬に乗る行為から連想されるような浮遊感もある。未名子は資料館での作業とオンラインの仕事に自分なりの決着をつけ、宮古馬とともに羽ばたくように駆け巡っていく。

み終えてから選評を見たのだが、『首里の馬』を推しているのは松浦寿樹さんと川上弘美さんだった。こういうとりとめもない作品好きそうだもんなぁ。遠野遥さんの『破局』を推しているのは平野啓一郎さん、小川洋子さん、山田詠美さん。もしかしたらこちらの作品のほうが私に合っているかもしれない。