書に耽る猿たち

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『夜と霧』ヴィクトール・E・フランクル/極限状態から見えてくるもの

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『夜と霧』ヴィクトール・E・フランクル 池田香代子/訳

みすず書房 2020.9.19読了

 

ウシュヴィッツ強制収容所。その名を聞くだけで恐ろしく震えそうな気持ちになる。ナチスが捕虜になった人を大量虐殺したと言われている場所だ。この強制収容所から奇跡的な生還を遂げたのが、著者のヴィクトール・E・フランクルさんだ。ナチスオーストリア併合により、ユダヤ人という理由だけで逮捕され、強制収容所へ追いやられた。

は、フロイトアドラーを師事する精神医学者、心理学者だ。ただ記録としてこの本を書いただけではなく、人間の生き方を奥深いところから突き詰めた哲学的な作品である。アメリカでは、人生で最も影響を与えた本としてベスト10にも入る。日本でも版が重ねられ、新訳が出るほどだ。

れだけ読み継がれているので敢えて私がここで要約を伝える程もない。書いてあることも素晴らしいのだが、フランクルさんはよくもこんな極限状態にありながら、冷静に分析し、強い心で生き抜くことができたのか。私はむしろそれが不思議である。常軌を逸した彼の精神力と生命力に敬意を抱くばかりだ。

強制収容所の生活が人間の心の奥深いところにぽっかりと深淵を開いたことは疑いない。この深みにも人間らしさを見ることができたのは、驚くべきことだろうか。この人間らしさとは、あるがままの、善と悪の合金とも言うべきそれだ。(145頁)

容所での生活は目を覆いたくなるような凄まじさがある。それならば、肉体的にも精神的にも自分を痛めつけ、むごい仕打ちをする監視員はどんな人達だろうか。フランクルさんは、そんな中にも人間としての優しさや尊厳に溢れた人がいることを知る。決して「場所」が善悪を決めるのではない。

のようにある意味で監獄以上の場所に身を置き、そこから這い上がった人にしか人間の尊厳や意味を知り得ないのであれば、私たちは彼のような方の声に耳を傾けるしかないと思う。作中には文豪ドストエフスキートルストイトーマス・マンらの言葉も言及されていた。確かドストエフスキーは監獄を経験している。

1月程前にたまたまついていたNHKの番組で、アウシュヴィッツ強制収容所が特集されていた。今でも当時の謎を解明するために特殊チームが組まれ、日々研究を続けているらしい。そこで何が起き、どのようにして人が殺められたのか。未だにわからない部分も多いようだ。私もこの問題について理解を深めたい、知らなくてはならないと強く感じた。