書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

『死神の棋譜』奥泉光/読んでいて詰んだかも

f:id:honzaru:20200920210151j:image

『死神の棋譜奥泉光 ★

新潮社 2020.9.21読了

 

井聡太二冠の誕生、羽生善治九段はタイトル通算100期の記録がかかる竜王戦に挑戦するなど、将棋界を取り巻く話題に事欠くことがない昨今。そんな中、将棋を愛してやまない著者の奥泉さんが見事な現代ミステリを仕上げた。

は将棋のことは正直疎い。先日少し記事にも書いたが、ちょうど椎名誠さんの『アド・バード』を読んだ頃、将棋ブームに乗っかり、子供向けの将棋盤(駒が磁石でくっ付くタイプ)と、簡単なルールブック、詰将棋初級本を買ってほんの少しかじった程度だ。そんな最低限の知識しかない私だけど、この小説はすこぶる楽しめた。

honzaru.hatenablog.com

や、もう奥泉さんにしかこんな小説は書けないでしょ!というような作品。将棋をベースにしたミステリにSFとファンタジーが融合したような感じだ。名人戦の日に、不詰めの図式を拾った元奨励会員の夏尾が行方をくらました。同じくプロ棋士になれず将棋関連の物書きを生業とする天谷と北沢は独自に調査を進めていく。真相は如何にー。

将棋の真理というのかな、そんなものに到達したいって願望は、将棋指しなら、誰でも多かれ少なかれ持ってるんじゃないかと思うんだよね。(53頁)

れは物語の初めの方に、天谷が梁田八段から聞いた言葉だ。この「将棋の真理」が重要なテーマになっており、これが失踪した夏尾を始めとし大きくかかわってくる。将棋に魅入られ将棋に人生を賭ける、これはある意味幸せなことだろう。そして、「将棋の真理」の「将棋」を、誰もが命を賭けられる他のものにも置き換えて考えことが出来るだろう。

現実的なストーリーもあるのに、丁寧でキチンとした文章、奥泉節とも言えるリズミカルで独特な文体はさすが芥川賞作家である。それなのに、この作品は直木賞的な小説なのである。いわゆる、ストーリー性が極めて優れており徹夜本と言えるだろう。

棋を描いた作品では大崎善生さんの『聖(さとし)の青春』、囲碁の世界を描いた作品では百田尚樹さんの『幻庵(げんなん)』が私の中では印象深く、再読したいと思える作品である。この『死神の棋譜』もそのラインナップに間違いなく入るし、エンタメ性を求めている方にはなおのことお薦めできる。

び3年前のブームに乗っかった時の話に戻るが、当時藤井聡太さんのクリアファイルと扇子を求めて東京の将棋会館にまで行った(ミーハー!)。隣にある鳩森八幡神社にも行き、お詣りをした後は当然の如く御守りを買い鳩みくじを引いた。この鳩森神社も作中にしっかり出てきた(かなり重要な場所として)から、余計に楽しめた。

f:id:honzaru:20200921192735j:image

f:id:honzaru:20200921192745j:image

honzaru.hatenablog.com