書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

『心は孤独な狩人』カーソン・マッカラーズ/誰もが抱える孤独

f:id:honzaru:20200929085656j:image

『心は孤独な狩人』カーソン・マッカラーズ 村上春樹/訳

新潮社 2020.10.1読了

 

んな帯の文句が書かれていたら、村上春樹さんのファンは読みたくなるもの。 たとえ、カーソン・マッカラーズさんの名前を知らなくても、フィッツジェラルドサリンジャーと並び、村上春樹さんの「とっておき」なんて。

(おし)のシンガーはどこか人を気楽にさせる、癒すことが出来る存在であり、誰もが彼のところに集まってくる。会話が出来ず、何も聞こえないというのに、シンガーに向かってみなが話しかける。シンガーは、みんなの声に耳を傾け理解をしているかのように。

当に大事なことは、もしかしたら耳からも目からでもなく、その人が纏っている雰囲気と気持ちから伝わるのかもしれない。でも、シンガーにとって一番大切な存在である同じく唖のアントナプーロスにはどうにも想いが伝わらない。それがどうにももどかしい。

メリカ南部の街でカフェを営むビフ、黒人医師コープランドアナーキストのブラント、少女ミック、そして唖のシンガーはそれぞれに苦悩を抱えながらも、もがきながら生きる。彼らの群像劇のような形で物語は繰り広げられる。決して報われることのないストーリー、黒人差別や同性愛、経済格差など重苦しいテーマもあるが、共感すべき想いやわずかな希望があり胸を打たれる。

ーソン・マッカラーズさんは今から80年ほど前に、なんと23歳という若さでこの作品を書き上げたのが信じ難い。瑞々しい感性を持ち、人間の孤独と哀しみをわずか20歳そこそこの彼女が知っていて表現できたとは驚きだ。そしてこの長さを書き上げる力。しかし、若くして文壇に登場した彼女のその後の人生は、決して順風満帆ではなかったようだ。

上春樹さんが訳した作品はいくつか読んでいるが、個人的にはマイケル・ギルモアさんの『心臓を貫かれて』が一番心に残っている。他の作品は、合う合わないがある。どちらかというと柴田元幸さんが訳す作品のほうが、自分にとっては読み心地というか感覚が合うような気がするなぁ。

honzaru.hatenablog.com

honzaru.hatenablog.com