『ガーデン』千早茜
文春文庫 2020.10.4読了
よく書店に並んでいるのは目にしていたが、千早茜さんの小説を読むのは初めてだ。なんとなく、イヤミス系なのかな?と思っていたけど、確か西洋菓子店とつく題名の作品もあったので、色々な作風があるのかなと。
千早さんも、主人公と同じように植物が好きなのだろうか。作中には花や観葉植物、そして苔、色々な植物が登場する。そんな植物に愛情を捧げる青年、30歳の羽野。植物を偏愛する一方で、人間関係を作ることは決してうまくないのだが、それを憂いてもいない。むしろ、自分だけにわかる世界でひっそりと生きようとする物語だ。
植物は自然に葉が生えて根を伸ばし花を咲かせる、生きている以上当たり前のことなのだが、確かにひっそりとした恐怖感はある。それは動物や昆虫と違って声を発することも飛ぶことも動くこともないからだろうか。私が怖いと感じるのは食虫植物だ。虫を食べる植物。虫をパクッと食べる動画を観たときには確かにゾッとした。
表現方法が優れている。菜の花の形容がとても良い。「菜の花はちっとも花らしくない古びたクレヨンのような匂いがする」これ、わかるなぁ。どちらかというと菜の花畑にいる時ではなく、食材として菜の花を調理するときや、食べるときに感じる。また「黄色はかわいい色だけれど、こんな風に群生すると強い。春が淡いものだなんて誰が決めたと言わんばかりだ」ここで私はゴッホの絵画を思い浮かべる。確かにゴッホのyellowは、強いエネルギーを感じる。
千早さんの文章はとても読みやすいから、読者を選ばないと思う。なんというか、今時の小説家という感じがする。人と一定の距離を保つ羽野を始め、取り囲む登場人物もどこか人と交わることを避けるような自分の世界を持っており、その独特の感性に共感する人が多そうだ。
帯にも名前があるが、文庫本の解説も尾崎世界観さんが書いている。あまりよく知らないが、クリープハイプというバンドのボーカルで、小説も書く才能豊かな人のようだ。そういえば『祐介』という自伝小説が売れていたような。