書に耽る猿たち

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『ファインダーズ・キーパーズ』スティーヴン・キング/小説を愛しすぎた故に

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『ファインダーズ・キーパーズ』上下 スティーヴン・キング 白石朗/訳 ★

文春文庫 2020.10.8読了

 

ょうどひと月ほど前に読んだ『ミスター・メルセデス』の続き、ホッジズ刑事シリーズの2作目である。前作が面白かったからすぐに買っておきスタンバイしていた。あのメルセデス事件にまた1人絡んでいる犠牲者がいた。

作で登場したホッジズとホリーは人探しをする私立探偵社を作る。ホッジズがメインで進むのかと思いきや、出てくるのは物語のほぼ半分を過ぎてから。この作品では文学を愛するが故に犯罪を犯すモリスと、同じく文学を愛する少年ピートが主人公だ。ピートが正義の主人公だとすればモリスは悪の主人公。

リスは小説に取り憑かれている。ハーツフィールドという作家が書いたある小説の主人公が辿る展開に納得ができず、隠居した作者の家に押入り強盗し殺人まで犯す。その際に現金と未発表原稿を記したノートを盗み、トランクに入れ土中に隠す。別の事件で逮捕され30年以上刑務所にいるのだが、隠した原稿を読むという希望だけを旨に仮出獄を夢見る。

は30年ほど経ち、ピート少年はトランクを発見する。家庭の貧困事情から、中に入っていた現金を家のために父親に送金し続ける。原稿もどうにか売り捌こうとするのだが、モリスの出獄時期と重なり思わぬ展開に。

説家、そして文学を愛する人のための壮大な物語がミステリ仕立てになっている。そもそも、トランクには札束や死体が入っていることがお決まりなのに、未発表小説の原稿だなんて、それだけでわくわくする!いやはや、前作同様に夢中で読めた。スピーディな追跡劇にハラハラし、そんな中にもキング氏ならではのヒューマンドラマがある。

人をいとも簡単に成し遂げるモリスは狂気の象徴でありサイコパスとも言えるが、文学への愛情だけは本物である。愛しすぎた故の狂気。小説に深入りし過ぎた人間はどうなってしまうのかー。もしかすると、読者をここまで夢中にさせるなんて、作家からするとある意味本望なのかもしれない。現実よりも虚構を信じてしまうほど、リアルで共感できるキャラクターを生み出すのだから。

の「ファインダーズ・キーパーズ」はホッジズの私立探偵社の名前であり、諺(ことわざ)で「落とし物は拾い物、無くしたら泣きを見る」という意味があるようだ。本当に、例のトランクそのもの。私が何か落とし物を見つけたら、、拾わずに無視することがほとんどだと思うけど、拾ったら幸か不幸か今後は考えてしまうなぁ。

んな風にシリーズが続いているのか、と唸る設定だ。もちろん本作だけでも充分楽しめるのだが、出来れば1作目から読むことをお薦めする。ここで彼らが、あの空間が結びついているんだ!と妙に嬉しくなる。3部作の完結編も早く文庫になることを祈るばかり。

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