文春文庫 2020.10.12読了
これもまた、遥か昔小学生の時に読んだ本だ。アニメでも観たような。少女の成長物語だったと覚えているけど、中身はすっかり忘れている。いまNHKで「アンという名の少女」という『赤毛のアン』が原作のドラマが放映されていて、それがなかなか面白いらしく、つられて早速本で読みたくなった。
新潮文庫の村岡花子さんの訳が有名だけれど、この松本侑子さんが訳した本作は比較的新しく、そして日本で初めての全文訳になるようだ。『レ・ミゼラブル』でも思ったけど、やっぱり全文訳を読まないと私は気が済まない。
アンは愛らしく素直で明るい女の子だ。彼女の話す言葉ひとつひとつが生き生きとしていて、どんな悩みがあっても吹っ飛んでしまいそうなほどの真っ直ぐなところに誰もが心躍らせる。何よりもアンがいつも大事にする「想像の余地」によって、見える世界が変わる。想像することってこんなにも大事なことだったのか。
子どもの頃はアンの気持ちに共感していたのだけれど、今読み返すとアンを養女にする老兄妹マシューとマリラの目線になる。昔は子どものいない老夫婦だと思っていたけれど、兄妹だったとは。そして、口うるさくておせっかいで、少し意地悪に見えたマリラが、優しさ故の行動だったのだと今ではとてもよくわかる。大人になってから読むことで10代のアンだけでなく、マシューとマリラという大人の成長譚にも気付かされる。
当初、力仕事を期待して男の子を養うつもりだった2人が、アンの魅力に惹かれ引き取ることに決めた時、マシューは「わしらが、あの子の役に立つかもしれないよ」と言う。結局、アンにとっても、マシューとマリラにとっても双方に役立つことになったのだ。役立つというよりも、むしろなくてはならない存在になる。
イギリス文学だと勘違いしていたが、モンゴメリさんはカナダの作家さんで、作品の舞台もカナダの離島、世界で最も美しいと言われるプリンス・エドワード島だ。美しい風景と自然が織りなす調和がアンの感性をさらに豊かにする。『アルプスの少女ハイジ』じゃないけれど、幼少期は自然とともに過ごすのが一番なのかもしれない。
文春文庫編集者の方にひとつ物申したいのは、注釈を各頁ごと(せめて章ごと)に入れて欲しかった。岩波文庫の『戦争と平和』(藤沼貴/訳・ちなみにこれは名訳で素晴らしい)なんかは、注釈が各章ごとにあってとても読みやすかった。しかも時代背景のコラムも随所に挟まれており興味深く読めて理解も深まった。
せっかく松本さんが素晴らしい注釈を「なぞとき」という形で巻末に約100頁近くも載せてくださっているのに、毎回探し出すのはなかなか大変。物語を途中で止めたくないから、本当に知りたいもの・気になる言葉しか参照しなかったのだけれど、これは勿体ないよなぁ。
きっと、ほとんどの人がこの『赤毛のアン』だけで終えて満足すると思うが(過去の私もそうだ)、『アンの青春』『アンの愛情』…とアンの人生はまだまだ続く。大人になったアンも見てみたい。