書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

『地下鉄道』コルソン・ホワイトヘッド/かつて黒人奴隷が生き延びるために

f:id:honzaru:20201023083501j:image

『地下鉄道』コルソン・ホワイトヘッド 谷崎由依/訳

ハヤカワepi文庫 2020.10.25読了

 

の本、単行本刊行当時からずっと気になっていた。長らく買おうか迷っていたのだが、今月の文庫本新刊コーナーに平積みされていて迷わずゲット。最近、文庫になるのが目覚ましく早く感じる。とは言え、出版業界の流れとして変化があるわけではなく、早く感じるのは自分自身が感じる時の感覚のせいだろう。

母の代から綿花農園の奴隷であったという少女コーラ。同じく奴隷である青年シーザーから「一緒に逃げないか」と声をかけられて逃亡する。地下を走る鉄道に乗り、逃亡劇が始まる。悪いことをしているわけではないのに、逃げなくてはいけない運命。

19世紀前半、奴隷州と呼ばれるアメリカ南部から北部に移れば自由になれるとされていた。当時、奴隷制度廃止論者たちが逃亡の手助けをしたのが「地下鉄道」という秘密組織だったらしい。レールが敷かれ列車に乗せて逃がしていたわけではなく、暗号のようなもの。著者ホワイトヘッド氏は、本物の列車に見立てて物語に仕上げた。暗号の「地下鉄道」組織では、実際どういう風に逃していたのだろう?

つて黒人奴隷はどのように扱われていたか、どれだけの人が無理を強いられ蔑まされてきたのかは、未だ根強く残る人種差別問題を見ればおのずと想像できる。その後南北戦争が起こり、奴隷解放宣言が発せられたわけだけれど、それまでは黒人は肌の色が違うというだけでこんな生き方を強いられていたのかと思うと胸が痛む。

害者とも言えるコーラをはじめ黒人の目線だけでなく、奴隷狩りをする白人リッジウェイや、我が子を捨てたメイベルなど、何人かの視点でも物語が語られる。過去や現在の挿話が物語に奥行きを与えるようだ。

厚で読み応えのある小説だった。軽く読み飛ばしてはいけない、というか出来ないような。「逃げる」というテーマだからもっと苦しく逃げ惑う切羽詰まった感じかと想像したが、そうではなかった。列車を降りたその土地で出会う人にも「生きる」ための戦いがあり、それぞれの物語がある。ハヤカワepi文庫に入るだろうなぁと思うような作品だ。

メリカでピュリッツァー賞、全米図書賞、アーサー・C・クラーク賞をはじめ名だたる賞を複数受賞しているのだが、結構難解な小説だと感じた。万人が読みやすいというわけではない。アメリカでこれだけ読まれているのは「黒人問題」がより人々の中で興味深くかつ重要な問題であるからだろう。

者は2019年に発表した『ニッケル・ボーイズ』という作品で2度目のピュリッツアー賞を受賞したそうだ。無実の罪で少年院に送られた子供の話、こちらの方が気になる。