書に耽る猿たち

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『信長の原理』垣根涼介/法則にとらわれ続ける

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『信長の原理』上下 垣根涼介

角川文庫 2020.11.5読了

 

根さんの小説は、文学賞三冠に輝いた『ワイルド・ソウル』しか読んだことがない。それもかなり前で、おもしろかった記憶はあるものの内容はほとんど憶えていない。最近の垣根さんは歴史小説を書くことが多く評判も良さそうなので、読もう読もうと思っていた。

の作品は歴史小説第3弾だという。はてなブログで読者になっているダディ・ブラウン (id:pto6) さんと、くー (id:ap14jt56)  さんがほぼ同じタイミングでこの本を紹介されていて、気になっていた。やはり評判に違わずノンストップに楽しく読めた。信長の最期、本能寺の変まで。

国時代の武将の中でも人気のある織田信長を描いた歴史小説である。その奇行から「うつけ者」と呼ばれた信長ではあったが、戦術と国を統治する能力においては類稀なる才能に秀でていた。

(ここから先は少しネタバレするので注意!)

長が、戦う軍隊について「働き蟻の法則」に例えた垣根さんの視点には目を見張るものがある。働く蟻は、真面目に働く者は2割、なんとなく働く者が6割、怠けている者が2割という法則だ。これが武士にも当てはまるという。合戦で勝つためには全員を真面目に働く人物に仕上げれば、例え人数が少なくとも勝てるのだと。

れは現代の会社組織にも当てはまる。実際に会社を動かしているのは2割適度なのだ。会社だけでない、学校、部活動、サークル、スポーツのチームプレー、政党、そんなものにももしかしたら同じような法則があるのかもしれない。ここ数日、社内の人物を見渡したり、プロ野球をテレビで観戦しながら考えてしまった。

かし、2割だけを集めても、そのグループの中でまた法則が生まれることに気づく。蟻たちの数を真剣に数え続ける実験に、信長の執念が感じられた。その夜、ふと妻の帰蝶(きちょう)と交わす会話がなんとも味わい深い。時代は違えど、夫婦のあり方を考えさせられる。信長が「働き蟻の法則」について、何故そうなるかは「最後は神仏のみぞ知る」と言う帰蝶

の法則を中心にして、信長の圧倒的な人生が駆け巡る。従う武将らについても、キャラが上手く立っている。歴史小説愛好家ではないので、この小説が独創的なのかは正直わからない。ただ確かなのは、垣根さんの書く歴史モノはすこぶる読みやすいということ。元々現代小説が専門家だからか、登場人物のセリフもスマート、周りくどくなくストーリーも頭に入りやすいのかもしれない。

長を描いた王道小説といえば、山岡平八さんの『織田信長』だろうか。未読なのでいつかは読みたい。斎藤道三織田信長W主役の『国盗り物語』は司馬作品のなかでも抜群におもしろい。やはり戦国時代の話は深いよなぁ。人気があるのもわかる。著者により解釈も異なるのでテーマに欠くことは今後もないだろう。

国武将の1人、この作品にも登場する柴田勝家。彼と同じ名前の作家さんがいるのを最近知った。もちろんペンネームではあると思うけど、ちょっと気になる…。