書に耽る猿たち

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『非色』有吉佐和子/結局どこでも差別は起こる

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『非色(ひしょく)』有吉佐和子

河出文庫 2020.11.12読了

 

の作品のことは知らなかった。というのも、長らく重版未定状態にあったからだ。使われている言葉に、差別と捉えかねない表現が多くあるのだ。巻末に有吉さんのお嬢様のよせがきがあるが、戸惑いながらも、この本の意義を編集者に熱く語られて、今回の復刊を了承したという。

は読んだ後、この小説は世に出すべきだと強く思った。確かに「ニグロ」「黒んぼ」など、今ではNGである差別用語が多く飛び交っている。しかし、日本人である笑子(えみこ)を通して語られるありのままの差別問題は、私たち日本人が読むことに大変意義があると思う。

別用語が飛び交っていると言ったが、肌の色による差別のことだけではない。文中に「かわりに背のおそろしく低い女が働いていた(162頁)」とある。これは単に背が低い人を指しているわけではなく、低身長症やターナー症候群など病気を持つ人のことだろう。

でこそ規制が厳しくなっているが、普段の生活で差別をしないように、発言をしないように、それを教えるのは書物の中であることは決して間違いではないと思うのだ。だって、誰がどうやって子供にちゃんと教える?本を読み、差別する側とされる側の気持ちを考えられることで、ようやく本当に理解できると思うのに。現代社会では、表現の自由が規制され過ぎて、学ぶ場が抑え込まれていることも問題だ。

アメリカでは、黒人・人種問題を取り上げた作品は多い。それは今でも根強い問題としてあるからだ。黒人や在留外国人が主人公であることが多い。この本では普通の日本女性の笑子が主人公で、彼女の視点から差別問題を暴いたことに大変意味がある。タイトル 『非色』は、「色に非(あら)ず」ということ。笑子は日本とニューヨークで、黒人の妻として、混血児の母親として生き、本当の差別は「肌の色」によるものではないと気付く。

ラクオバマさんが黒人で初めて大統領となった。そして今回バイデン政権が誕生したら、副大統領に黒人女性で初めてカマラ・ハリスさんが就任されることになる。数十年後には、米国における白人・黒人の比率で黒人が上回るという。もしかしたら、人種差別問題も何らかの形で変わってくるかもしれない。

和の女傑文豪といえば、私の中で宮尾登美子さん、三浦綾子さん、有吉佐和子さんの3人がセットになっている。それぞれに独特の言い回しや、女性ならではのしなやかで慎ましい文体が特徴的だ。何より、強さと儚さをあわせ持つ女性を描くのが上手い。

の3人の中で、現代に近いテーマを書くことが多く、文体も古めかしくないのが有吉さんだ。だから、一番復刊が多いのだろう。この作品も1964年に書かれたとは到底思えない。今書かれたと聞いても驚かないほど時代の先端にある。

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