書に耽る猿たち

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『野球盲導犬チビの告白』井上ひさし/野球アニメを観ているかのよう

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『野球盲導犬チビの告白』井上ひさし

実業之日本社文庫 2020.11.14読了

 

体に障害を抱えている人でも競技ができ、かつメダルを競えるという素晴らしいスポーツのイベント、パラリンピック。オリンピックの直後に開催される世界大会である。もちろん、障害をもつ方だけで行う競技や大会は他にも多くある。この小説では、なんと盲目の田中一郎が、プロ野球チームに混ざりプレーをして一大選手となる。

れだけではない。その一郎の目となり、グラウンドで助けるのが盲導犬チビだ。「野球盲導犬」というあたかも存在するような名前がついているが、もちろん架空の言葉だ。このチビが、一郎と日本の野球界について犬目線で語るストーリー。なんだか、アニメにありそうな感じ。

の設定の非現実性から、最初は冗談半分で軽く読んでいたのだが、だんだんとこれが現実であるかのように思えてしまう。これが井上ひさしマジックだろう。ユーモア混じりで優しい井上さんの文章は、やはりさすがだと感じる。たぶん、井上さん自身楽しんでこの小説を書いたんだろうなぁ。

球好きなら楽しく読めると思う。過去の偉大な選手のことや打撃や守備、ボールのことまで、綿密な資料を紐解き詳細に書かれている。虚構と史実が巧みに絡み合う。ただ、あまり野球に興味がない人にとっては、だらだらと果てなく感じてしまうかもしれない。

球というスポーツを通して、盲目の人達や日本における盲導犬の現状をも訴えている。そして、生きるうえで大切なことは、決して目に見えるものだけではないことも井上さんは説いている。

自身は野球は好きで球場にも足を運ぶ。今年はコロナ禍の影響で回数は多くなかったが、観客数を抑えての観戦、声出しと応援禁止という応援方法は結構好きである。キャッチャーミットに納まるボールの音、ピッチャーが放つボールを芯で捉えた打球の音がしっかりと耳に入り、プロスポーツを生で観られている感覚が良い。

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