書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

『ママ、最後の抱擁 わたしたちに動物の情動がわかるのか』フランス・ドゥ・ヴァール/地球規模で考えよう

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『ママ、最後の抱擁 わたしたちに動物の情動がわかるのか』フランス・ドゥ・ヴァール 柴田裕之/訳

紀伊国屋書店 2020.11.25読了

 

動は感情とは別物であると著者は言う。「感情」は内面の主観的状態であり、自分の感情については言葉で伝え合う。一方、「情動」は身体的・心的状態であり行動を促す。情動は特定の刺激で引き起こされ変化を伴うため外側からでも感知できる。この本では、人間である我々が他の動物を見て情動を理解できるのかどうかを著者は語る。

ちろん本猿としては、表紙が猿、チンパンジーだったが故に書店で目に止まった。そしてパラパラとめくってみると、巻頭にいくつかの猿の写真。猿好きとしては読んでみたくなるもの。こういう科学書のようなものって、私はたいてい途中から飽きてしまうのだけれど、チンパンジーボノボが何度も登場するから最後まで興味深く読むことが出来た。

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マ、とは母親(Mother)のことではなく、オランダのバーガーズ動物園にいたアルファメス(最上位のメス)で年老いたチンパンジーの名前だ。40年来の友であるヤン教授が病で死の床にあるママに会いに行くと、教授を抱きしめて歯を剥いて大きく笑った。このような触れ合いは前代未聞のことだそう。この出来事から連想し、動物の情動について研究し考察したことがこの本に書かれている。

動というものについてはほとんど認識したことがない。わかりやすい例えが、オリンピックで金メダルを取った選手が、上に手を上げ身体を大きくし喜びを表す。これは情動だという。過去の選手を見て、喜びを表現するこの動きを視覚から取得したものではないことは、盲目のパラリンピック選手(産まれた時から全盲)が同じ表現をすることからも納得できた。感情表現とは異なる情動。

間だけが「赤面する」哺乳類だということは考えてもみなかった。かのマーク・トゥウェイン氏もこれに気付いていたとはさすがである。また、ラット(ねずみ)ですら、情動があることに驚いた。逃げ出さないようにラットを檻の中に入れ、それを入れるさらに大きな檻に別のラットを入れると檻に入ったラットを助けようとしたのだ。

学的、生物学的な本を読むと、普段なら見過ごしてしまう「なぜ」に気付く。世界規模、地球規模の観点だから、自分たちが考え悩むことが本当にちっぽけなものに思える。思えば文学はこの対極にいるようで、内なる狭い世界をつつくようなものだ。人間が我が物顔で生存する地球だけれど、どんな生物にも生きるための意味がある。もっと地球規模でモノを考えなくてはと改めた。

リ袋を買わずにエコバッグを持ち歩くこと、プラスチックストローを使わないこと、省エネを心がけること、地球環境に優しい洗剤を使うこと、そんな小さな積み重ねから。出来ることから。動物好きとしては、彼らが住まう場所を汚してほしくない。