『ミッドナイトスワン』内田英治
文春文庫 2020.11.28読了
草彅剛さんの演技が素晴らしいと評判の映画『ミッドナイトスワン』を、監督自ら小説にした。本当は原作があって映画化、という流れでないとどうも納得できない(原作を大事にしたい)のだけれど、過去に『ゆれる』という、これも映画からノベライズした西川美和さんの小説を読んだときに、なかなかおもしろかったから、今回も少し期待をよせて読んでみた。
この内田監督は『全裸監督』を撮った方だ。映画で演じた山田孝之さんよりも、裸になって被写体を撮る本来の全裸監督(村西まもるさん)の姿は、初めて見た時衝撃を受けた。今回の『ミッドナイトスワン』もニューハーフの世界を描いた作品で興味をそそられる。
もうすぐ40歳になる凪沙(なぎさ)は、完全に女性になるための手術費用を稼ごうと新宿のニューハーフクラブで働いている。ひょんなことから、親戚である12歳の一果(いちか)を一時的に預かることになる。一果は地元で母親から虐待され問題児となっていた。2人は初めはそっけない態度で接していたが、バレエをきっかけに変わり始める。
ジェンダーの話がほとんどだと思っていたけれど、バレエのこと、思春期の友情のこと、親子のことなどさまざまな視点から物語が綴られる。それぞれが持つ夢と希望が儚くも砕けちる様が、哀しいのに美しくもある。ある程度結末が予想できるのに頁をめくる手が止まらない。
本を読んで登場人物に共感できると、その作品に入り込みやすい。しかしトランスジェンダーの方はまだまだ割合としては少なくて、なかなか想像できない世界だ。それでもその世界を知りたい、理解したいと私たちは惹かれる。
思うにトランスジェンダーの方たちは、誰よりも繊細で素直で美しい心を持っている。何か一つのことに突出した才能を持っている方も多い。それを活かせる世の中になるといい。いつか「男らしい」とか「女らしい」という言葉は無くなるのではないだろうか。
やはり監督でかつ脚本家なら、それなりの小説は書けるんだなぁ。太田愛さんなんてまさにそうだ。『相棒』シリーズの脚本家なだけあって見事なエンタメ小説を作った。『犯罪者』から始まるシリーズ3部作は夢中で読めた。
普段脚本を書いているから、どうしても会話文が多くなってしまう。三人称で書かれている対象がいきなり変わって戸惑ったりもする。そして細かい情報を読者に与えすぎてしまうこともある。それでも、ドラマか映画を観ているようにすうっと頭に入るストーリーは、本を読むという少し頭を使う行為なのに全く疲れることなく楽しむことができる。でもたぶん、この作品は映画の方がきっと良いんじゃないかな。