『吹上奇譚 第一話 ミミとこだち』吉本ばなな
幻冬舎文庫 2020.12.8読了
哲学ホラーってなんだろう。哲学とホラーって似ても似つかないような気がするのだけれど、突き詰めて深入りすると実はどちらも混じり合っているかもしれなくて、久しぶりに吉本ばななさんの世界に浸ってみる。タッチは違うけれど、昔ベストセラーになった『ソフィーの世界』の表紙を連想してしまう。
吹上町(ふきあげまち)を故郷とするミミとこだちは双子の姉妹。父親を事故で亡くしたあと、寝たきりで目を覚まさない母親を残したまま姉妹は故郷を離れて暮らすが、妹のこだちはある日故郷に戻り行方不明になる。2人で一体であると信じるミミはこだちを探すために不思議な故郷の謎に迫っていく。
なんだか夢みがちなストーリーだ。ホラーというよりは哲学風ファンタジーだと思う。みんな子供の頃には頭の中ではこういう世界を思い描いている。大人になったら自然と忘れてしまう大事なことを思い出させてくれるようなそんなお話。
ホラーではないけど、、確かにファンタジーって少し怖いところはあるよなぁ。『チャーリーとチョコレート工場』なんて、リアルに悪者がやっつけられていくから、どんなホラーよりも恐怖を感じる。なんだか、それに似た感覚。この怖さは大人になってから気付くものだ。
不思議な力を持った占い師、古くからある奇怪な言い伝え、広い屋敷に住む毛むくじゃらで獣のような風貌の人。吹上町の奇妙な住民たちは、心は優しくて不思議と読んでいてほっこりする。こっそり見守ろうと思えるような。続きは第二話が文庫化されていて、第三話は単行本が刊行されたばかりのようだ。摩訶不思議なばななワールド、たまにはいい。
吉本ばななさん、確かひらがなで「よしもとばなな」じゃなかったかな?と思って調べてみたら、2015年まではひらがなだったようだ。『キッチン』や『TUGUMI』が大ヒットした時のジャケットのイメージはひらがなだもんなぁ。でも、今買おうとすると2016年以降に重版されたものなので名字が漢字になる。変えたきっかけはなんだったのだろう?