書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

『風の影』カルロス・ルイス・サフォン/本にまつわるファンタジー

f:id:honzaru:20201228003859j:image

『風の影』上下 カルロス・ルイス・サフォン 木村裕美/訳

集英社文庫 2020.12.28読了

 

ペインの国民作家、カルロス・ルイス・サフォン氏が今年6月に亡くなられた。追悼として書店に平積みされるまで、私は彼のことはもちろん作品さえ知らなかった。「忘れられた本の墓場」シリーズなんて聞いただけで面白そうだし、購読しているブログでも、最近この本を紹介している方がいて気になっていた。

像していた話とはまったく違った。もっと叙情漂う歴史ミステリのようなものかと思っていたのだがこれはファンタジーだ。映像が頭に浮かぶようで、雰囲気はハリー・ポッター。最初は子ども向けの冒険のような印象で物語が進む。

々受け継がれている「忘れられた本の墓場」に父に連れて行かれたダニエルは、本を1冊選ぶ。それがこの本のタイトルでもある『風の影』という小説だった。著者はフリアン・カラックス。彼の本はこの1冊を除き全て焼き尽くされているという。謎の作家フリアンの過去を調べて行くうちに真実がシンクロしていく。

ホームレスで古書店(ダニエルの父が経営)の店員になるファルミンのなんと味のあるキャラクターなこと!知性があるのにドスケベ丸出し、でも喋りと仕事は天才的。彼がいなかったらこの作品のおもしろさは半減するだろうし、むしろ成り立たないような気がする。主人公ダニエルよりも圧倒的な存在感で君臨している。

の著者にはない独特の読了感、いや「読んでいる間」の不思議な感覚は突出している。これだけのボリュームで冒険、ミステリ、恋愛など色んな要素を詰め込んでいるのは単純にすごい。しかし展開が早すぎたのとなんとなく読むのが精一杯になってしまい、個人的にはピンと来なかった。世界でこれだけベストセラーになっているのだから、単純に私との相性が合わなかったということだろう。

にまつわる小説は国内でも海外でも多々存在する。古書店稀覯本をめぐるミステリなんて、本好きならたまらない。そんな中でも世界で一番の作品はミヒャエル・エンデ著『はてしない物語』だろう。映画では『ネバーエンディングストーリー』。原作を読んだのは5年ほど前で結構最近なのだが、あの赤がね色の単行本を手にして読み耽った時間は、超絶たまらない至福の読書時間だったことを思い出した。