書に耽る猿たち

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『アウグストゥス』ジョン・ウィリアムズ/ローマ帝国はいかにして生まれたのか

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アウグストゥスジョン・ウィリアムズ 布施由紀子/訳

作品社 2021.1.9読了

 

ーマの古代史、紀元前1年にローマ帝国地中海世界を支配した時代を描いた作品である。その後は平和な200年と言われる「パックス・ロマーナ」になる。私は結構な年齢になるまで、「アウグストゥス」が人の名前だと勘違いしていたのだが、「尊厳者」という意味であり、ローマ帝政を率いた人に与えられる称号である。

ローマ皇帝としてアウグストゥスの称号を与えられたのがこの小説の主人公、オクタウィウスである。彼は、かの有名なユリウス・カエサルの後継者として、内戦を勝ち抜き地中海世界に平和をもたらす。世界史でも学び、いくつかの本でもこの時代の作品を読んだが、どちらかというと苦手な分野だ。

てが書簡、回顧録、手記、議事録などの文書で書かれた小説である。ほとんどが書簡体、つまり手紙である。この手法で古代ローマの歴史を紐解いたことがまず素晴らしい。紀元前のローマの歴史というだけでも難しいのに、それをこのような壮大な物語に仕上げたのだ。

手な分野ではあったのだが、感情が露わになりやすい手紙という形式だったからか、比較的スムーズに物語に入り込めた。名前がややこしく、誰だったっけ?と何度も登場人物紹介を見返しながら。辻邦生さんの『背教者ユリアヌス』はもう少し後の時代になるだろうか。

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 ョン・ウィリアムズさんの作品は、翻訳大賞を受賞した『ストーナー』が日本では一番有名だろう。私も以前読んだ時に、静かな感動に浸ったのを憶えている。正直なところ、個人的には『ストーナー』のほうに分配が上がるかなぁ。

『ストーナー』では、どこにでもいそうなある1人の男性の生涯を辿る(それがまた感動させる筆致で描かれている)が、一方この『アウグストゥス』では、ローマ帝国の偉大なる統治者の生涯が描かれており、スケールが大きい歴史小説だ。全米図書賞を受賞した著書の最後の小説となる。それにしても、全米図書賞は骨太で重厚な作品が選ばれることが多いよなぁ。