書に耽る猿たち

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『白いしるし』西加奈子/その人の作品を好きになる

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『白いしるし』西加奈子

新潮文庫 2021.1.9読了

 

西加奈子さんの直球恋愛小説。それも、苦しい苦しい恋愛だ。32歳独身、絵を描きながらバイトをして暮らす夏目は間島くんに恋をする。間島昭史は、作中ではずっと『間島昭史』と『』つきで表されている。まるでひとつの作品であるかのように。

まりにも恋愛一辺倒だからか、その雰囲気が江國香織さんが書いたものと見紛う(読み紛うかな)ほどだった。それでも、最後まで読むと、やっぱり西さんらしさがあるなと感じた。

初から配偶者や恋人がいるのをわかっているのに好きになってしまうこと、これはたぶん誰もが一度は経験すると思う。怒涛の苦しい恋愛になること、最後は離れてしまうこと、友達にも反対されること、わかっていてもどうしようもない気持ち。それがあまりにも純度100%で書かれているから、もはや清々しいほどだ。

とつの絵を観て、それを描いた人を好きになる気持ちはよくわかる。同じように、音楽を聴いて、本を読んで、それを生み出した人に興味を持つことはごく普通の感情だ。だから、それをきっかけに好きになることもある。「あの人の才能に惹かれた」という人は、まさにそのようなきっかけで好きになったのだろう。それでも、いつしか「その人自身」を好きになる。

局夏目は予想通りの展開を迎えるのだけれど、女性として、1人の人間として、失恋から立ち上がり成長する過程をみると応援したくなるもの。誰かを傷つけてしまう恋愛を肯定するわけではないけれど、仕方のない感情もある。人を好きになることは、ただそのことだけで素晴らしいことだ。

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