書に耽る猿たち

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『コレクションズ』ジョナサン・フランゼン/ある家族のありのままを曝け出す

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『コレクションズ』上下 ジョナサン・フランゼン 黒原敏行/訳

ハヤカワepi文庫 2021.1.23読了

 

アメリカにおける国民的作家の1人、ジョナサン・フランゼンさんについに手を伸ばしてしまった。『ピュリティ』や『フリーダム』が気になっていたのだが、分厚い単行本しかまだ日本にはなく、文庫で手に入るのは本作だけだ。またまた名作揃いのハヤカワepi文庫、そして本作は全米図書賞受賞作だ。ちなみに、この『コレクションズ』は「収集」ではなくて「修正」の意味。「collections」ではなく「corrections」、lとrの違い。

メリカのどこにでもありそうな家庭の日常を描いたストーリー。アルフレッドとイーニッドの老夫婦は2人暮らし。最近のアルフレッドの病状が思わしくないことが妻イーニッドには気がかり。2人には3人の子供がいる。銀行に勤める長男のゲイリーはいつも妻と喧嘩ばかり、子供は3人。次男チップは、女性問題から大学講師を辞めさせられ広告会社に勤めている。末っ子の妹デニースは一流レストランでシェフをしているバツイチの独身。

ルフレッドの身体を心配するイーニッドは、次のクリスマスはみんなで過ごそうと、子供たちにしつこく提案をする。ゲイリーの妻キャロラインが嫌がるほど。姑問題がゲイリー夫妻の喧嘩の要因のひとつ。他の人物にもたわいもない喧嘩や出来事が肉付けされ、シニカルかつユーモアある日常が映し出される。

通のありきたりの家族の話なのに、重厚な作品に仕上がっている。こういう作品を書ける日本人はあまりいないよなぁ。情景描写と登場人物の過去の描き方がこれでもかというほど細かく、文学的でありながらも時おりパンチが効いている。アメリカ人独特のウィットにも富んでいる。  

代を語りながらもなんの前触れもなく過去のある場面に移る。それが、文章で1行もあけずに唐突に現れるのに、ちゃんと読者も判断できてその過去にワープできる。これって結構すごいことだと思う。訳者の黒原さんの手腕もあるだろう。

下巻でまぁまぁのボリュームだ。長さが極端に違う7つの章があり、それぞれ独立したようなストーリーだが連作短編集のような体ではない。実は読んでいて、すごく好みのシーンもあれば、小難しくて投げ出したくなりそうなシーンもあった。小説なのに、隠し事がないありのままの家族が浮き彫りになり読み応えがある。恥ずかしげもなく曝け出された人間の性。普通なら隠すだろう場面を、惜しげもなく放出していて読んでいて潔い。

っくり読んで充実した読書だったのだけど、なんだか疲れた。お腹いっぱい。それでも最後は迂闊にも少しホロリとなる。あぁ、やっぱりジョナサン・フランゼンさんはすごい作家さんだ。