書に耽る猿たち

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『あゝ、荒野』寺山修司/ボクシングと青春と新宿歌舞伎町

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あゝ、荒野寺山修司

角川文庫 2021.1.24読了

 

山修司さんは類稀なる才能を持ち、演劇・映画・短編・詩・エッセイなど幅広く活動された方である。有名なのは『家出のすすめ』や『書を捨てよ、町へ出よう』だろうか。唯一の長編小説がこの『あゝ、荒野』である。初めて読むのが唯一の長編なんて、もし気に入ってしまったらどうしよう。次に読む楽しみがなくなる…。

初に、主な登場人物紹介のようなものがあるのだが、これにまず目が飛び出る。普通は「こんな名前の人が出るのね」とさらりと目を通すだけで本文に進むのだが(どちらかというと本文を読んでいるときに見返すもの)、思わず見入ってしまう。なんと紹介文に疑問符がある。よく見ると「主な登場人物」ではなく「『あゝ、荒野』のための広告」とある。

舞伎町を舞台にした青春群像劇だ。昭和のうらさびれた新宿歌舞伎町を荒野とみなしている。そしてまた若者たちの心を吹き荒ぶものもまた荒野だ。ボクシングジムに通うバリカン(二木建二)と新次の2人の若者がメインで、他にもバリカンの父建夫、同性愛者兼性的不能者宮木、明るく健康的な女店員芳子など年齢は様々なのだが、私には何故か青春がテーマのように思えた。

曲のような、シナリオのような、詩のような、とてつもなくリズミカルでまるで音楽を聴いているかのような読書体験だった。言葉の選び方や表現方法が独特で、寺山さんがもし長く物書きを続けられていれば、名作がもっと生まれただろうにと残念に思う。

リカンは本をよく読む。作中にカーソン・マッカラーズさんの『心は孤独な狩人』が出てきたのには驚いた。去年読んだばかりだし、寺山さんも読んでいたんだなぁと思うとなんだか感慨深い。狩人に出てくるのは、吃り(どもり)ではなく、唖(おし)ではあるが。

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クシング、競馬、猛々しい性などをテーマにして熱く描写されているため、男性のほうがこの小説に感情移入しやすいと思う。特にバリカンや健二と同世代が読んだらきっと突き刺さるはず。

れにしても、この角川文庫の表紙モデルの女性、似ていないのにこの髪形を見るだけで一色紗英さんが思い浮かぶ。そうなると連想するのは、ポカリスエットのCM、そして織田哲郎さんの『いつまでも変わらぬ愛を』だよな~。