書に耽る猿たち

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『こちらあみ子』今村夏子|相手の気持ちを考えることの大切さ

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『こちらあみ子』今村夏子

ちくま文庫 2021.1.27読了

 

が通っていた小学校では「特別支援学級」なるものがあった。普通のクラスに所属はしているが、授業だけはみんなと違う別の教室で受ける。知的障害または身体障害があり、支援を受けないと生活ができない子供たち。私のクラスにも1人そんな男の子A君がいた。明るくて優しく素直でいい子だったから、クラスにも馴染んでいた。ただ、みんなと同じように流行りの話をしたり放課後一緒に遊ぶことは出来なかった。

のA君といつも一緒に登下校しているB君も同じクラス。勉強もスポーツもできる優等生で優しいB君は、先生からも生徒からも好かれていた。A君の家族でも兄弟でもないB君が送り迎えをしていたのは、家が近いという理由だけではないだろう。放課後の遊びにB君を誘うと、いつも「A君と帰るから」と断られるか、一度A君を送り届けてから戻ってくるようなことを繰り返していた。

の『こちらあみ子』を読んでいる間、そんな過去をずっと思い出していた。たぶんあみ子は支援学級に入るか入らないかギリギリのところの女の子なのだ。文中にはそんな風に書かれていないし、その学校には支援学級がないようだけれど、きっとそう。

年『星の子』を読んだときにも感じた「ざわっとした感覚」がまたつきまとう。苦しいような、もどかしいような、痛々しいような気持ち。あみ子は決して悪くないし、たぶん誰も悪くない。だから、読んでいて苦しくなるのだ。あみ子も、お母さんも、お父さんも、兄も、のり君も、誰の気持ちもわかる。読む人によって様々な読み方が出来るけれど、生きていくうえで必要な「相手の気持ちを考えることの大切さ」を教えてくれる。

の文庫本には他に『ピクニック』『チズさん』という短編も収録されている。こちらも今村さんらしい、みずみずしい感性で描かれている小説だ。3作品とも読みやすいくせに心の奥を突いてくる。

学生の時に小学校の同窓会があった。仲良くなった人たちとその後数年は集まっていて、そこに冒頭で話した同級生のB君もいた。すこぶる魅力的な青年になっていた。優しくていい人という言葉だけでは追いつかないほど、その場にいるだけで周りを和やかにし、思いやりに溢れる存在。あぁ、やっぱりこんな大人になる人だったんだよなぁと改めて納得した。もう何年も会ってないけど、またみんなに会いたいなぁ。A君もどうしているかなぁ。

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