書に耽る猿たち

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『蠅の王』ウィリアム・ゴールディング|子供だけの世界で何が起きるか

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『蠅の王』ウィリアム・ゴールディング 黒原敏行/訳

ハヤカワepi文庫 2021.2.5読了

 

ーベル文学賞受賞作家、ウィリアム・ゴールディング氏の代表作だ。ハエはカタカナが一般的であるが、この小説では「蠅」である。「蝿」ではなく「蠅」なのが、視覚的に怖く感じる。調べてみると、正式な漢字が「蠅」のようだ。ハエは汚いものや臭いを発するものに群がり、近くで飛ぶとうるさく、良いイメージはない。

の本のタイトルでもある「蠅の王」とは、聖書に登場する悪魔であるベルゼブブを指しており、作品中では蠅が群がる豚の生首を「蠅の王」と形容している(Wikipediaより)。有名な作品だけれど、実は読んだ人は多くない気がする。少なくとも私の周りで話題になったことは一度もない。

供だけの島、大人がいない子供だけの世界。そこで繰り広げられる生活と崩壊。もう少し明るい冒険譚のようなものだと思っていたのだが、震える話だった。子供だけの世界にも、邪悪な人間の心や獲物を捕らえる快感のようなものが沸き起こってくることがなんともおぞましい。〈大人がいない島〉という設定なだけで、もしかしたら現実の学校や子供だけの集団でも、子供たちには同じような心理が働いているのではないだろうか。

ヤカワepi文庫に収められているこの作品、おそらく元は児童文学だと思う。主人公が子供たちであることから、同レーベルのアゴタ・クリストフ著『悪童日記』が思い浮かぶ。子供だけに末恐ろしい。辛酸をなめた大人のなかで狂気の人物がいるのはわかりやすいが、本当は子供だって際どい世界で生きている。