書に耽る猿たち

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『ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる』東浩紀|失敗力をいかす

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『ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる』東浩紀

中公新書 2021.2.13読了

 

くの方がこの本を紹介され、かつ絶賛されているため、私も気になり読んでみた。「ゲンロン」という思想誌や「ゲンロンカフェ」という企画が存在することは知っていたが何をやっているのかあまり知らなかった。ただ、大好きな川上未映子さんが写真に映っているのを目にして興味はあった。また東浩紀さんのことも、名前をよく目にする人気がある人なんだなというくらいの認識しかなかった。

から、私が東さんの書いたものを読むのはこれが初めてだ。東さんが自ら創った「ゲンロン」という会社の10年間の軌跡がこの本にしたためられている。経営に携わる人にとって為になる本だと思うけれど、単純に読み物として、特に言論という文化的テーマに興味がある人にはおもしろく読めると思う。

ンロンはオンラインが主役だと思っていたけど、実はオフラインを大切にしていたと知って驚いた。時代の先端を行っていたというのは後からそう言われただけで、東さんが言うには嬉しい「誤配」だっただけ。未来のゲンロンも「誤配」が何かを生み出す、そうありたいと東さんは強く願っている。

社が最大の危機、資金繰りに苦しんだ2015年、Twitterで炎上しようがSNSでバズろうがどうでもよくなったそうだ。直面しているのは資金繰りであったから。「SNSの論争が生活に余裕がある人の遊びにみえた」と東さんは言う。本当にそうかもしれない。スマホを片手に打つ行為、本当に辛い状況ならそれすら出来ないんじゃいかと思う。だから、本来の叫び声は私たちは見落としてしまっているのではないだろうか。

ンロンカフェにとても興味を持った。動画で観るよりも、コロナが収束したら会場に足を運んでみたい。東さんは「ゲンロンでは才能あるクリエイターではなく、それを支える批判的視点をもった観客も一緒に育てたいと考えている」と言う。「知の観客をつくる」とはこういう意味だったのか。

敗だらけの会社設立10年間を惜しげもなく披露しているけれど、世の経営者って本当は同じように失敗ばかりしてるのではないか?それを表に出さないで、失敗してしまったらひっそりと影をひそめ、盛り返した人は失敗を認めないだけではないのだろうか。

から、こういった体験を出来たこと、こんなふうに大っぴらに出来る神経(変な言い方だけど)、それだけでもう別格なことで、東さんを信用できる気がする。東さんの発言力、行動力、失敗力をもってすれば未来のゲンロンもなんだかんだうまくいくのではないだろうか。

うやら東さんは過去に三島由紀夫賞を受賞したことがあるらしい。ということは小説。こういう思考回路の人が書いた小説、気になる。余談だが、東さんの奥様がライトノベル作家ほしおさなえさんだったことに驚いた。どうしてだか勝手に2人の共通点があまりないような気がしていた。食卓で知の会話が繰り広げられるのだろうか。いやいや、家ではたぶんごく普通の他愛もない会話だろう。