書に耽る猿たち

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『レストラン「ドイツ亭」』アネッテ・ヘス|ホロスコート裁判に向き合う|国民が知るべきこと

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『レストラン「ドイツ亭」』アネッテ・ヘス 森内薫/訳 ★

河出書房新社 2021.3.8読了

 

し不気味な感じだけどかわいくもある表紙のイラスト(ついでに言うとゴッホ作「夜のカフェテラス」の構図や色合いに似ている)、タイトルの朴訥で大きめの字体に妙に惹かれて手に取ってしまった。現代ドイツ作家の本を読むのは久しぶりである。

れがとてもおもしろかった。多少癖がある私の好み(誰でも嗜好は人それぞれだが)がどうこうというよりも、この小説はおそらく誰が読んでも満足できると思う。物語を読む楽しさ、過去の歴史の学び、人間の生き方を考えること、そんなものがぎっしり詰まっている。難しすぎず易しすぎず、程よい感じも良い。

ストランがこの作品の舞台であり料理をめぐる話なのかと思いきや全く違った。物語は1960年代、2つの場面が進行する。1つはドイツの司法がドイツ人を裁いたアウシュビッツ裁判を巡るストーリー。その裁判において原告側証人(ホロスコート被害者)の通訳を務めるのが主人公24歳のエーファである。もう1つのストーリーがエーファと婚約者、家族を巡るストーリーだ。エーファの両親が営むのがこの小説のタイトル「レストランドイツ亭」である。

もそもアウシュビッツで何が行われていたのかはドイツ人も当時は理解できていなかったようだ。去年『夜と霧』を読んで、私もその事実と無惨さをようやく少し認識した。著者のアネッテ・ヘスさんは、収容所での生還者の声をまとめ、それをフィクションにして様々な人々の人間模様を絡めながら素晴らしい作品に仕上げた。 

ーファは何故、国家の大きな問題に関わる大変な通訳の仕事を引き受けたのか?何が彼女を突き動かしたのか?そんな自問を繰り返すシーンを読んで感じた。誰しもが何かに突き動かされずにはいられないという場面に出くわす。反対されようが、辛い獣道になるとはわかっていても、身体が勝手に動く血が燃え盛る感覚。本を読み終わる頃にはエーファは確実に成長している。

廷ものをかなり久しぶりに読んだ気がする。私の中で法廷ものの王道は、ジョン・グリシャムさんだ。マシュー・マコノヒーさん主演『評決のとき』は映画館でも観たし今でも心に残っている。法廷ものは日本よりも海外のほうが人気があるように思う。

者のアネッテ・ヘスさんは、様々な仕事を経験したあと、舞台やドラマ等の脚本を手掛けている。この作品は小説初挑戦ということだが、その出来栄えにも驚かされる。海外の翻訳小説は国内の作品に比べて当たりの確率が高い。というのも、他国の言語を訳して自国に広める試みをするという時点で、良い作品と認められているからだ。多分、いま日本語で読める海外の作品は、母国ではどれもベストセラーなのだろう。

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