書に耽る猿たち

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『香水 ある人殺しの物語』パトリック・ジュースキント|本から立ち昇るニオイ

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『香水 ある人殺しの物語』パトリック・ジュースキント 池内紀/訳

文春文庫 2021.5.1読了

 

年、瑛人さんの『香水』という曲が流行した。TVで歌う姿もよく目にした。サビの部分が頭から離れず、口ずさむこともよくあった。そんな日本人は多かっただろう。

パトリック・ジュースキントさんの『香水』は、30年以上前に母国ドイツだけでなく世界中でベストセラーになり、映画化もされた作品である。全編通して嗅覚の物語である。いや、こんな不可思議で奇想天外な小説は久しぶりである。

い、臭い、香り、いろいろなニオイが小説から立ち昇る。文章を読んでいてこんなにも鼻をひくつかせて匂いを想像したことは今までになかった。そういう意味では忘れられない小説になるだろう。

子殺しの罪で死刑となる母親から産まれたグルヌイユがこの小説の主人公である。孤児として転々と過ごしてきたが、嗅覚をいかして香水の調合をするようになる。

えば、犬の嗅覚は人間の1億倍も優れていると言われている。人間の嗅覚は他の動物に比べるとかなり劣っているのだ。グルヌイユは人間技とは思えない嗅覚を発揮する。しかし自分自身には全く匂いがない。

に見えない匂いというものは、その瞬間しか感じることができず時間が経つと薄れていくものが多い。目や耳、口と比べると、鼻は1番なくても困らないものかもしれない。そんな鼻を主役にした画期的な作品だと思う。グルヌイユは一体どんな匂いに取り憑かれて、何を求めていくのか。香水という魅惑の液体から想像するような、なかなかミステリアスな物語だ。

自身は無臭を好むため香水はつけない。香水のような人工的に作り出す匂いよりも、原材料そのものの香りのほうが好きだ。挽きたてのコーヒー豆の香り、ラベンダー畑の匂い、畳や木の香りが好きである。