書に耽る猿たち

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『動物農場』ジョージ・オーウェル|滑稽なのに恐ろしや

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動物農場ジョージ・オーウェル 山形浩生/訳

ハヤカワepi文庫 2021.5.21読了

 

『一九八四年』と並ぶオーウェルさんのもう一つの代表作『動物農場』を読んだ。ブタの独裁政権の話であることは広く知られている。刊行されたのは1945年で古典の部類になるだろうが、今もなお色褪せない名作だと感じた。

ル中のジョーンズさんの農場にいる動物たちは、偉そうな人間たちに対し反乱を起こし人間を追い出す。他の動物よりも少し頭の良いブタがリーダーとなり、動物だけの農場が誕生する。人間のいない世界で、唄を歌い、仲良く秩序を保ち生活していたのだがー。

の作品はもともと「おとぎばなし」という副題がつけられていたようだ。つまり、実話ではなく風刺のように描かれた「ものがたり」であることを強調しているのである。何故なら、明らかにロシア(旧ソ連)の独裁政権を批判している内容だからだ。

物目線で子供にも馴染みやすく、文章も簡潔で読みやすいのだが、内容としては怖いものがある。滑稽なのに、描かれているその世界は末恐ろしい。この感じわかるだろうか。

初は一致団結していた動物たちだったが、徐々にブタが優位に立っていく過程が見事だ。そしてブタの中でもナポレオン(スターリン)がスノーボール(トロツキー)を抑えのし上がっていく。間違っていることでも声を出せない周りの動物たち。なんだかんだ面倒なことはせずに同調してしまう。このような構造は、どんな社会や組織にも当てはまる。  

治風刺小説としては、最近だと百田尚樹さんの『カエルの楽園』を思い起こす。政治批判が描かれた作品は数多くあるが、世界で最も有名なのが『動物農場』だろうし、ここから他の作品も追随したと思われる。

ーウェルさんは、報道の自由を訴えるための序文を考えていたようだ。文庫本の巻末にも序文案の邦訳が載っている。『動物農場』ではロシア革命とその後のスターリン社会主義政権への批判を込めたことと、出版に伴う言論・報道の自由について述べている。ウクライナ語訳の序文(これも巻末にある)には、彼自身の経歴や思想が詳しく述べられている。この2つの序文と、訳者による解説がとても優れており、より理解が深まった。

ーウェルさんの『一九八四年』はハヤカワ文庫、というイメージだったけれど、少し前に角川文庫から新訳が刊行された。おっ!と驚いた。訳による違いを読み比べをしようと早くも目論んでいる。『一九八四年』は、なんだか中毒性があるんだよなぁ。オーウェルさんはルポタージュや随筆も書かれているようで、そちらも是非読んでみたい。 

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