『舞踏会へ向かう三人の農夫』上下 リチャード・パワーズ 柴田元幸/訳
河出文庫 2021.6.28読了
2年くらい前だろうか、リチャード・パワーズさんの『オーバーストーリー』という装丁の素晴らしい単行本が書店にずらっと並んでいて、手にとったものの値段もまぁまぁだし、読んだことのない作家だしと諦めていた。その頃からパワーズさんのことは気になっていたのだが、デビュー作である本作を今回ようやく読んでみた。
最初は物語の内容にいまいちついて行けずよくわからなかったのだが、どうやら3つの物語が同時進行しているようだ。「私」がデトロイトでとある写真(これが文庫のカバー表紙の写真)を見つけ、興味を惹かれて謎解きをしていく一人称で語られるパート。そして2つめが、「私」が魅せられた写真に写る3人の農夫たちのパート。もちろん時間軸は過去に遡る。最後3つめが、メイズという男性があるパレードで見た謎の女性を追い求める、現代アメリカ風のポップで疾走感のあるパートだ。
この3つのパートがどう交差していくのかと期待をしながらも、途中までは複雑な小説だと思い、いささか苦しみながら読んでいた。まるでトマス・ピンチョンさんやミシェル・ウェルベックさんの作品(2冊づつしか読んでないが)を読んでいる感覚に近い。文章自体は難しくないのに、語られている内容が目まぐるしく飛び回って、ついていくのがやっと。自分の読解力はまだまだだなぁと少し残念になる。
それにしても、パワーズさんは凄まじく頭の良い方だ。文学や歴史はもちろんのこと、化学、物理まで幅広い分野において博識なことはもちろん、空想の奥行きが半端ない。そして柴田元幸さんの解説によると、これを24歳で書き上げたというから驚きだ。
「私」が語るパートがやはり読みやすい。伝記を読んでいるような、いや、3人の伝記を書こうとしている人物についての物語を読んでいるかのよう。写真学についての記述はおもしろかった。
たった1枚の写真から想像力を巧みに働かせ、このようなアメリカの歴史に関連する壮大なストーリーを思いつくこと自体離れ業だ。本を読んでいて、書店のカバーをこんなにも何度も外して見返したことは今までにない。3つのパートが少しづつ立体感を持ち読者に迫ってくる様は圧巻である。