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『ロデリック・ハドソン』ヘンリー・ジェイムズ|芸術の街ローマで溺れる

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『ロデリック・ハドソン』ヘンリー・ジェイムズ 行方昭夫/訳

講談社文芸文庫 2021.8.28読了

 

の作品の存在は知らなかった。ヘンリー・ジェイムズさん最初の長編小説ということで、60年ぶりに新訳になったそうだ。恋愛小説のカテゴリになるのだと思うが、芸術と絡めたストーリー自体がとてもおもしろく読書の醍醐味を存分に味わえた。さすがジェイムズ氏、登場人物の心理描写が巧みである。

デリック・ハドソンが作った彫像作品を見て一目で才能を見出したローランド・マレットは、アメリカ・マサチューセッツ州ノーサンプトンという村を離れてローマに連れて行く。ロデリックは村にメアリという婚約者を残したままだ。そしてローマでは自らの感性を高め美術に没頭しながらも美貌のクリスチーナに出会い、翻弄されていく。

の4人の恋愛模様が芸術の街イタリア・ローマをメインにして繰り広げられる。まずはローマの街の建造物や美術作品の描写にうっとりさせられた。登場人物はみな一筋縄ではいかない性格で独特の思想があり、なかなか思うように事が進まない。だが、それが物語をおもしろくさせている所以だろう。

イトルはロデリックの名前なのに、ローランドの視点で進むため主人公はローランドとも言える。ローランドには、メアリのことよりも見えているのはロデリックであって誰よりも理解している。このような結末になったのはローランドが近くにいたからとも言える。私は読み進めていくうちに、ローランドに不吉さと不穏さを感じた。

術に関する小説では、絵画を題材にしたものはよくあるが、彫刻を主題にした小説は初めて読んだかもしれない。絵画以上により立体的な彫刻作品は、作中でも「男性的」と言われている。平面に立体的な美と奥行きを作り上げる絵画と比べると、初めから立体的に作り上げる彫刻には、挑戦的な眼差しと強さ、存在感がある。

デリックと母親、クリスティーナと母親。母親が自分の子供を想う気持ちはどんな母親であれ強いだろうが、2人の母親は育て方、接し方をどこかで間違えてしまったのか、干渉しすぎているふしがある。父親がそばにいなく母親だけになるとこうなってしまうのか。

ェイムズ氏の作品は、まだ『大使たち』『ある貴婦人の肖像』『鳩の翼』は未読である。なかなか手に入りにくいので、復刊するなり新訳を出してもらうなどもう少し出版社に期待したいところ。

れにしても、講談社文芸文庫(学術文庫も)は高額過ぎる…。文庫で税抜2,400円とは。読みたいラインナップはたくさんあるのに、ちょっと簡単には手が出ない。それでも、こんな至福の読書時間を持てたのだからもちろん満足ではあるのだが。

の『ロデリック・ハドソン』は、アメリカ文学という気があまりしない(舞台がローマだからであろう)。スタンダールやオースティンなどロマン文学が好きな人は特に楽しめると思う。

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