書に耽る猿たち

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『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』桜木紫乃|程よい距離感がちょうどいい

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『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』桜木紫乃

角川書店   2021.8.29読了

 

イトルが表している通り、「俺」を含めた4人が登場する小説である。桜木紫乃さんの作品は、ストーリーがしっかりしていて、いつどんな時でも(忙しくても時間がなくても多少疲れていても睡眠不足でも)、気軽に読めて楽しませてくれるからお供にしやすい。はてなブログで読者購読をしているedwalkさんとくー (id:ap14jt56)さんが確かほぼ同じ時期にこの本のことを紹介していて、気になっていた。

品の舞台は、北海道・釧路にあるキャバレー「パラダイス」。「俺」こと章介は、パラダイスで下働きをする20歳の若者。博打好きでだらしない父親が亡くなり離れて住む母親からお骨を預かることになる。パラダイスにやってきた期間限定の芸人が、マジシャンのチャーリー片西(師匠)、シャンソン歌手ソコ・シャネル(ブルーボーイ)、踊り子フラワーひとみ(ストリッパー)の3人である。

介が住む寮(古い木造アパート)で4人の共同生活が始まる。章介だけでなく、みんな訳アリの人生を歩んできた。陽気にふるまうみんなだが、少しづつそれぞれの過去が明らかになっていく。それも、深入りせずに親身にならずに、あっさり踏み入る距離感がなんかいいのだ。家族以外で共同生活が可能になるのはこの距離感があるからだ。

匠は章介に「大舞台に立てるのは、欲を気づかせない人間だけ。スターというのは人前に出た途端、あらゆる欲を決して見せることができる。欲を華に見せられなくなったらお終い。」と話す。スターってそういうものなのかと確かに納得。いつも「ふふふ」とふんわり癒し系の師匠は時々ずばりと芯を突く話をする。もしドラマ化されたら、師匠は小堺一機さんか。あ、小日向文世さんもいいなぁ。

の街のキャバレー(今もキャバレーってあるのかな?)は、人間の酸いも甘いも何でもござれな世界なのに、不思議と嫌らしさや悲しみがない。そして釧路の極寒の中なのに、4人のほっこりする掛け合いや優しさから、読んでいるこちらまで心が温かくなるようだ。キャバレーのマネージャー木崎のキャラもいい。章介の成長物語でもあり、家族とは何か、自分の人生とは何かを考えていく。読後感がすこぶる良い。

の小説は、第13回新井賞を受賞している。「新井賞」とは、知る人ぞ知るカリスマ書店員新井見枝香さんが選んだ本に与えられる。半年に一度、自分が読んだ本の中から推したい本を発表しているというもの。元々は三省堂書店神保町店で勤務されていたのだが、最近HMV &booksに職場を変えたようだ。神保町の三省堂にはたまに行くのに、一度はお会いしたかったなぁ。

の本、帯が金色になっているから普通に写真を撮ろうとすると、どうしても自分の姿というかスマホがちゃっかり写ってしまう。ちょっと撮り方を工夫して本を立てて立体的に撮ってみたら、、、これがなかなか良い味を出しているような。

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