『トム・ソーヤーの冒険』マーク・トウェイン 土屋京子/訳
光文社古典新訳文庫 2021.9.23読了
誰もがこの少年の名前は知っているだろう。私は子供の頃に本を読んだことがあり、いかだに乗っているシーンとペンキ塗りのシーンだけは記憶にあった。
トムはいたずら好きでわんぱくでお調子もの。些細なことで笑い転げたり、飽きっぽかったり。好きな子に正直に「好き」だと言えるのは、子供ゆえだろう。人間はいつの間に何も言えない大人になってしまうんだろう。大人になるとはそういうことなんだけど。
何かというとトムは良心の問題にぶち当たり、後悔したりポリーおばさんを心配する。いたずら心で悪いことをしても、しっかりと自分で反省するという行為。これはとても大切なことで、これをしてこなかったら本当の意味で悪人の大人になってしまうのかもしれない。
子供向けに読みやすくしようとしてか、細かすぎるほど多くの章にわかれている。連作短編のイメージだったのだけど、続きもので長編小説だったのだなぁと改めて知る。
ハックルベリー・フィンが颯爽と登場した。昔はハックのことなんて全然気にしていなかったしどんなふうに絡んでいたかなんて覚えていなかったけど、こんなに存在感があったとは。そもそも、この児童文学を読むきっかけは『ハックルベリー・フィンの冒険』を読みたかったからだ。
アメリカでは誰もが(特に文豪が)『ハックルベリー〜』に影響を受けたというし、読もう読もうと前から思っていた。ただ、記憶が曖昧なのでちゃんと『トム・ソーヤー〜』から読み直したかった。揃って同じ訳者のもの、初めは柴田元幸さん訳を迷っていたが柴田さんのハックはまだ文庫本になっていないし、、と最近お気に入りの光文社古典新訳文庫に。
児童向けの小説なのに、時折り格調高い雰囲気も感じられた。訳者の土屋さんによると、本来の原作はゴシック調で結構難易度が高い文体になっているらしい。世に出ている児童文学の訳は抄訳でやわらかく簡潔な表現になっているが、今回の訳はなるべく原文に忠実に訳されているから、大人でもちょうどよく楽しめるのである。挿絵も挿入されていて良い。『ハックルベリー〜』も近いうちに読むとしよう!