ちくま文庫 2021.9.30読了
一度読んだらその文体の虜になると言われているアンナ・カヴァンさん。代表作『氷』よりもまず先に、本名からアンナ・カヴァン名義に変えて最初の作品である本作を読んだ。
一つの作品が10頁にも満たない短編がずらりと並ぶ。掌篇やエッセイとも呼べるようでもあり、分類に困る類の作品だ。同じ人物が何度も登場するから連作短編集のようにも思える。最初の『 母斑(あざ)』という作品から引き込まれた。
一体全体、この鋭くもあり弱くもある微妙な感性はどこから来るのだろう?明らかに精神に異常をきたした彼女の思想は、事実なのか虚構なのか想像の産物なのか。常に何者かに追われているようで心休まる気持ちがせず不穏な影がつきまとう。それなのに何故か読み進めてしまう。
極度にメンタル・ヘルスに問題を抱えた著者は、「ヘロイン」と「小説を書くこと」を生きる糧としていた。精神的に病んでしまうのは、心が素直で繊細な方が多い。だからこそ美しい表現が生まれるのだと思う。
読む側の心理状態によっても、彼女の作品の受け止め方は変化しそうだ。たぶん、生活に疲れ果て、何かにすがりたい気持ちになったときに読む方がなお一層響いてくるような気がする。もしそんな状態になっても、本を読む行為だけはやめないようにしたい。