書に耽る猿たち

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『ミシンの見る夢』ビアンカ・ピッツォルノ|手に職をつけること

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『ミシンの見る夢』ビアンカ・ピッツォルノ 中山エツコ/訳

河出書房新社 2021.10.4読了

 

に職をつけること。いくら時代が変わって、工場生産やAIでほとんどのものがまかなえるとしても、最後は人の手による細かな技術と知恵が必要である。これだけは未来永劫変わらないと思う。この作品は「お針子」、つまり「縫製」という技術を身につけた、イタリアのある女性の生涯を描いたストーリーである。

全にこの装丁に目を奪われてしまった。こんなにも手に取りたい意欲をくすぐる表紙は滅多にない。特に女性にとっては。小説自体もイタリアの国民的作家のベストセラーとあり、読んでみたらとてもおもしろく、物語を読む醍醐味が感じられた。まだ女性の地位が蔑まれていた時代に、力強く生きる女性たちの姿が光っている。

行のコレラ(感染病を目にすると嫌になる!)のせいで祖母と2人だけになった主人公「私」は、自分の力で生きていくために祖母から縫製の技術を習い自分のものとする。リネン類の簡単なものからドレスまで。

人公自身の体験というよりも、お針子として富裕層の方と付き合い、その家に住み込みで働くうちに驚く秘密を知ることになったり色々な揉め事に巻き込まれたりと。もちろん恋のエピソードも。  

初の章から登場するエステル嬢は「私」の1番の理解者であり親友のようになる。自己主張をして強く生きるエステルは、当時(19世紀末頃)としては目立っていたはずだ。現代ではこういう女性は珍しくともなんともないが、先陣をきって女性の生き方を切り開いた彼女のような人は称賛に値するだろう。

者のビアンカ・ピッツォルノさんはイタリアの国民的作家として知られており、特に児童文学で名を馳せている。この『ミシンの見る夢』は大人向けの小説ではあるが、海外翻訳作品にありがちな難解さは全くなく非常に読みやすい。

れは、元来が児童向けの小説を書いているが故にストーリーがしっかりしていて、また読者の想像に委ねる部分が少なく比較的しっかりと物事の細かな説明がされているからだ。なんというか、心残りが全くなく、完全なる物語世界を堪能できる作品なのだ。

んな分野でもいいから「手に職をもつこと」、これを身につけておけば良かったと今更ながらに思う。それもかなり専門的に。他の人にはできない自分だけの強みがあれば、何歳になっても仕事は途切れないだろうし困ることはない。もちろん自分なりの誇りと努力、そして良好な人間関係も同じくらい大切だ。