集英社文庫 2021.10.10読了
子供の頃に夢中になって読んだ『シートン動物記』と『ファーブル昆虫記』。全巻揃えたのか図書館で借りて読んだのかは覚えていないけれど、動物や昆虫など生き物について学ぶのにとても役に立ったことは確かだし、何よりも本を読む楽しさを教わった。多くの話を読んだはずなのに、狼王ロボと熊の話しか記憶にない。それだけ印象深かったのだがストーリーが曖昧である。急に、無性に読みたくなってしまった。
『狼王ロボ』
アメリカ・ニューメキシコ州のコランポーに1頭の灰色狼がいた。牛や羊をくい散らかし、人間の罠も見事にかわす、頭の良い巨大な狼王ロボ。あんなにも憎かったはずなのにその最後はどうにも切なくなる。狼といえども最愛の者を失ったら弱くなってしまうなんて人間と同じではないか。
ロボがブランカを探して泣き続ける声とは一体どのようなものだろう。これを読み終えて、ロボのラストに泣かない子供はいないのではないだろうか?
『灰色クマの伝記』
ロボの話ともう一つ記憶にある熊の話がおそらくこの物語だと思う。読む前は全く覚えていなかったが読み進めるにつれて既読感がおしよせる。幼い頃に母親熊と兄弟を銃により失ったワーブが、強くたくましく生き抜いた一生を描いたものだ。
大きくなったワーブが白い毛をなびかせていたことから、「白い熊」を表すワーブという名前で呼ばれるようになる。ワーブは決して勇敢でも知恵が働くわけでもなかったが、「孤独」が力強く生きる力を養った。人間はまたしても銃を放ち動物を殺そうとする。動物からすると、人間がいかに忌み嫌われ、残忍な仕打ちをしているとわかる。
ワーブという名前のクマということから関連ひて『クマの子ウーフ』という絵本を思い出した。結構好きで何度も読んでいた記憶がある。あれはどんな話だったのだろう?
紹介した2作以外に『カンガルーネズミ』『サンドヒルの雄ジカ』が収録されている。そもそも児童向けの作品であるので、大人向けの本はないだろうと思っていたが、集英社からこの文庫がシリーズ3巻で刊行されていた。
挿絵は画家でもあったシートン自らが描いたものだ。この挿絵は妙にリアルな感じで子供の頃は少し怖い気持ちがしたものだ(児童向けの本にも同じような絵があったからたぶん同じシートンの絵だったはず)。
解説を読むと、シートンは「自然の中で生きる動物たちを、人が楽しむために閉じ込めてはいけない」と考えていることがわかる。私たちが楽しむ動物園、これは動物を苦しめているのだと改めて複雑な気持ちになる。
ただ観察し物語にするだけではない。シートンの動物への愛が強く感じられた。どの作品も物語として完成度が高く、じわじわと感動が押し寄せる。