『皇帝のかぎ煙草入れ』ジョン・ディクスン・カー 駒月雅子/訳
創元推理文庫 2021.11.3読了
この作品はジョン・ディクスン・カーの多くの小説の中でも名作と名高く、そのトリックはアガサ・クリスティーをも脱帽させたと言わしめている。クリスティー作品を読むことをライフワークにしている者にとって、これは読むしかない。
前夫ネッドと離婚したばかりのイヴは、トビイ・ローズと知り合う。ローズ家の人たちにも気に入られ、トビイからの求婚を受けて婚約をした。ところがトビイの父親が書斎で殺害され、その容疑がイヴに降りかかる。何故、ありもしない証拠がー。
この小説のタイトルである「かぎ煙草入れ」がどんなものなのか私は知らなかった。吸う目的ではなく名前の通り「嗅ぐ」粉末を入れるものである。作中に登場するこのかぎ煙草入れは、ナポレオン皇帝のものでたいそうな骨董品としてマニアにはたまらないものらしい。
古い作品であるのに、全く色褪せることのない優れた傑作だった。解説を読むと、あらゆる布石が打たれていたにも関わらず、全くわからなかったことに「参りました」となる。また、男女の恋愛観の特徴もよく捉えられており共感しながら読み進められる。登場人物も少なめで混乱もなく読める。
それにしても訳のなんとこなれたことか。まるで訳されたものであることを忘れてしまうほどで、下手な日本語以上に流暢ですらすらと読めた。カーの小説は、過去に読んだことがないかもしれない。別名義のカーター・ディクソンの作品も。有名すぎて未読ということは結構あるあるで、まさにそれ。
個人的に、創元推理文庫はフォントが小さいからあまり好きではないのだけれど、このカーのシリーズのジャケットはアンティーク調のイラストに味があってミステリ感が漂いわくわくする。また、別のカー作品を読んでみよう。