『サイラス・マーナー』ジョージ・エリオット 小尾芙佐/訳
光文社古典新訳文庫 2021.11.10読了
機織り(はたおり)という職業については、現代社会で、さらに日本ではなかなか想像しにくい。サイラス・マーナーとは、この小説に登場する孤独な機織りの主人公の名前である。地味で、はたから見ると幸せにみえない彼の人生ではあるが、晩年に得たものは何だったのか。
友と恋人に裏切られたサイラス・マーナーは、絶望のなかで故郷を捨てた。ラヴィローという小さな村に辿り着き、機織りをして質素にひっそりと暮らす。楽しみは機織りで得た金貨を貯めて眺めて触れること。これは、今でいう通帳を見てにんまりするようなイメージだろうか。いや、印字された数字を見るのと、重くて光る実物の金を触るのとでは全く異なるだろう。
それにマーナーが大事にする金貨は、お金を貯めることに酔いしれているわけではなく、人を大事にする気持ちと変わらないように描かれている。人間は裏切るがモノは裏切らないと信じているかのように。マーナーは村の人々との交流もないまま生活していたが、新たなる災難が襲いかかる。なんという運命!こんな善良な人に困難ばかり被せて!と憤りながらも仕方なく読み進めていく。
実は最後まで読むと、人生にとって大事なものは何なのかが見えてくる。人間にとって「人生の終わりのほうに幸せがやってくること」が実は一番良い人生と言えるのではないか。だから、若い頃、そしてまさに今、辛い難局にいる人がいたら、乗り越えることできっと光は見えてくるのだと思える。
マーナーの物語と同時に、村の富裕層を父に持つゴッドフリーの物語が交差しながら進んでいく。彼の物語も実は幸せとは言えないのだが、最終的には愛が全てを救うかのようだ。
ジョージ・エリオットさんの作品はやはり趣がある。人間の真理について説いており哲学的である。自分の好みに合うから、ひたすら読み続けていたい文章だ。今年の6月に『ミドルマーチ』を読み、確実に今年のベスト3に入るほど気に入りとても感動した。
エリオットさんの作品は今のところ手軽に手に入るのはこの本で終わりだ。どうしよう。彩流社という出版社から「ジョージ・エリオット全集」が刊行されているようだが、値段をみて驚いた。さて、どうしよう。新訳の文庫化(岩波さんあたり出してくれないかな)を待つか、図書館で借りるか…。