書に耽る猿たち

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『パワー・オブ・ザ・ドッグ』トーマス・サヴェージ|鳥肌が立つほど感性を揺さぶられる名作!

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『パワー・オブ・ザ・ドッグ』トーマス・サヴェージ 波多野理彩子/訳 ★★

角川文庫 2021.11.18読了

 

日から一部の映画館で公開される同名映画の原作である。この作品自体かなり気になっていた。というのも、なんと『ブロークバックマウンテン』を彷彿とさせるとあるから。私は映画のなかでは『ブロークバック〜』が5本の指に入るほどお気に入りなのだ。

から、少しだけ期待しながら映画の原作であるこの作品を読んでみたのだが、、なんと期待以上に素晴らしかった。こんな小説は今までに読んだことがなく、読み終えた直後は衝撃を受け鳥肌が立ってしまったし、暫くしてからもぼうっと放心状態。とんでもないものを読んでしまった。

きな牧場を共同経営する兄フィルと弟ジョージ。フィルはスマートで頭が良く快活、ジョージはずんぐりした体型で物静か、まさに対照的である。何十年も2人での生活を続けてきた。そこにローズが現れてジョージと結婚することで不穏な空気が生まれてくるのだ。

の先どうなってしまうの?フィルは何を考えているのか?まさに息もつかせぬ展開でサイコ・サスペンスとも言える。ストーリー自体おもしろいのにさらに文学的でもある。登場人物全ての心理描写が巧みで、感性に訴えかけられる。色々な愛の形、美しい大自然の描写や残酷な論理。無駄な文章が何一つない。本当におもしろかった。こういう本に出会うのは年に数回だけだ。余韻に浸りたくて、明日、本を読みたくないほど(たぶん読むけど)。

画化に合わせてこの角川文庫の本と早川書房から単行本が新訳が刊行されていた。どちらも新訳のようで迷いに迷った(特に早川さんは訳にも装丁にも力を入れているし…)。書店で最初の段落を読み比べ、どちらも遜色がなかったから安価な文庫のほうを選んだ。でも訳者違いで読んでもいいかなと思っている。きっと、そのうちハヤカワepi文庫に入りそう。

もそも最初の一段落を読んだだけで、引き込まれる。どうしてこんな名作が長く絶版になっていたのか不思議だ。皆さん是非読んで欲しい。外国文学(翻訳もの)が苦手な方は、映画を観るのもいいと思う。ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞しているくらいだから間違いないはず。かくいう私も、観に行こうかと思っている。俳優陣がどのように複雑な心理を演じるのか楽しみなのだ。