書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

『いつか深い穴に落ちるまで』山野辺太郎|読書芸人で紹介されていた本を読んでみた

f:id:honzaru:20211214082932j:image

『いつか深い穴に落ちるまで』山野辺太郎

河出書房新社 2021.12.14読了

 

日、テレビ番組「アメトーーク」で読書芸人が放映されているのを観た。読書芸人はなんと4年ぶりだというから驚いた。それよりも、その回にゲストで登場していたのがカズレーザーさん以外にほとんど知らなかったことに愕然。名前は聞いたことがあっても、その方の芸風はおろか顔さえも・・・。

のごとく色々な本が紹介されていたのだが、気になったのが「ラランド」のニシダさんが紹介する本たち。自宅(正確には彼女の家)の本棚が映し出されているのを見て、この方と本の趣味というか傾向は合いそうだな~と思っていた。だから、彼が強くおすすめする山野辺太郎さんの作品を早くも読んでみたのだ。

の『いつか深い穴に落ちるまで』(なんだか燃え殻さんの本のタイトルに似ているものがあったような…)は、文藝賞を受賞されていたのに、知らなかった!いま出版業界では売れっ子小説家の登竜門みたいになっている文学賞なのに。

 

木一夫は、とある会社の山梨県の広報課で働いている。「地球に穴を掘り、反対側まで掘り続けて、日本のちょうど裏側のブラジルまで通れるような穴を作ろう!」そうひらめいた今は亡き山本さんの想いを引き継いで。なんというストーリー!初めは喜劇のような感じかと思っていたら、なんと登場人物たちは真面目も真面目、大真面目にこの事業に取り組んでいるのだ。

上ひさしさんが話していた。難しいことをいかにわかりやすく、簡単なことをいかに難しく書けるかが大事だと。この本を読みながらふと思い出した。地球に棒を貫通させるなんて奇想天外なことを大真面目に書く、まさしくこれじゃないかって。

ラリーマンだって、捨てたもんじゃないぞ。鈴木みたいに、一つの夢に向かって真面目に邁進していくこと。出てくる人物が鈴木、山本、佐藤とか結構よくある名前なのもきっとわざとなんだろうな。

れでも日本のサラリーマンを皮肉ってる、明らかに。こうやって上司から言われたことをやってるだけではこんな人生を過ごすことになるぞと言われているのか、またはほとんどの人がこういう人生なんだから、そんななかでも楽しさや生き甲斐を見つけていくようにと言われているのか。果たしてどっちだろう?読む人によって正反対になる。

後まで読み終えたとき、こころなしか寂しく切なくなった。この感じはなんだろう。はかない夢。人生ってこんなものか。ブラジルにいる広報担当者のことだけはちょっと気がかり。

 

ランドの西田さんは、今年読んだ中で1番の衝撃を受けたのが山野辺太郎さんだと言っていた。確かに類稀なるストーリー、きちんとした優れた文章で丁寧な作品だった。文藝賞を受賞されているから、編集者や作家からも評価を受けている。ただ、私にとっては衝撃とまではいかなかった。けれど読んで良かった。

が言いたいかというと、ニシダさんが自分の中でこんな風に思える作家を見つけられたことを羨ましく思うと同時に、自信を持ってみんなに薦めていることが単純に、素直に、素晴らしいことだと思ったのだ。例の炎上騒ぎで色々言われているけれど、誰でもが好きなものを好きなように紹介して、誰かの心に響けばいいと思う。