書に耽る猿たち

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『女には向かない職業』P.D.ジェイムズ|確かに、若い美女が探偵業をするのは限界がある!?

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『女には向かない職業』P.D.ジェイムズ 小泉喜美子/訳

ハヤカワ文庫 2022.1.3読了

 

ヤカワ文庫では年に一度「ハヤカワ文庫の100冊」というフェアをやっている。去年も9月にラインナップが発表され、各書店で大々的に展開された。2021年は「つながる物語。」というテーマで、いくつか気になった本のうちの一冊が本書だ。カバーが新しくなり目を引いたのも手にしたきっかけである。

ーデリアの共同事業主であるバーニィ・プライドが自殺をするという衝撃的な場面から幕を開ける。もしやこれが殺人事件の始まりか?と思いきや、バーニィは不治の病を苦にして本当に自殺したのだった。残されたコーデリアは若干22歳の女性であるから、探偵業をするには「女には向かない」と周りに言われる。それでも、ある学者から、息子の自殺を調べて欲しいという最初の依頼をなんとか1人で成し遂げようと奮闘する。

んなに期待していなかったこともあるのか、とてもおもしろく読めた。なんといっても、この小説の主人公、コーデリアのなんと魅力的なこと!バーニィから探偵業のなんたるかを教わっているがまだ経験のない若い美女が、味方もなく(相棒もいなく、の意味)1人で果敢に立ち向かう姿を見ると応援したくなる。彼女の行動力と知性に惚れ惚れする。それにしても、よくもまぁ、あんなところで寝泊まりするなぁ…と。

件解決後のストーリーもとてもよくできていて、P.D.ジェイムズさんってなかなかな作品を書くなぁ、コアなファンがいそうだなと思う。同じイギリス女性作家のアガサ・クリスティーさんの作品と雰囲気は似ているのだけど、ジェイムズさんのほうがより入り組んでいる感じだ。会話文も地の文も緻密で複雑な印象を受ける。

が古くて読みにくいという意見もあるようだが、私はこの直訳のような訳文が結構好きだ。むしろ英国の古典ミステリの雰囲気を感じられるし、あまりにもくだけた訳よりはこちらのほうが噛み締めて読んでいる感じがする。私はたぶん、流暢な日本語よりも、ちょっとうなるような文章でないと納得しないあまのじゃくな読者なのだ。

コーデリアが主役の作品はもう一作邦訳されているから必読だし、他の作品も気になる。そういえば、桜庭一樹さんの『少女には向かない職業』はこの作品のオマージュなのか(まだ未読)?それから、これもタイトルが似ているホーリー・ジャクソン著『自由研究には向かない殺人』もかなり気になっている。