書に耽る猿たち

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『締め殺しの樹』河﨑秋子|荒々しく生臭く

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『締め殺しの樹』河﨑秋子

小学館 2022.1.21読了

 

前何かのテレビ番組で、河﨑秋子さんの『肉弾』という小説が紹介されていた。作品のことよりも河﨑さんが元羊飼いだったということに興味を覚え、どんな作品を書くのかと気になっていた。

の『肉弾』を探して書店に行くが見当たらず、新刊で並んでいた『締め殺しの樹』を手にした。このタイトルがおぞましいが、「シメゴロシノキ」というのは実際に存在する樹木なのだそう。他の樹木に絡みつき、何年もかけて元の樹木の居場所をなくしてしまうという恐ろしい植物だ。

海道・根室の地が舞台であるからか、読んでいるだけで寒さが身に沁みるようだ。私が住む関東ですら最近はかなり寒いのに、冬の極寒の地はどんなだろう。

親も知らず、育ててくれた祖母も早くに亡くしたミサエは、元屯田兵の家に引き取られる。重労働と陰湿な扱いを受けて過酷な生活を強いられていた。北の地に生きる女性の、読んでいて辛くなる物語だった。

んな展開になるのかと先が気になる。不穏な空気が絶えず続く。初めはミサエを不憫に思い読んでいたのに、いつしか疑心を抱くようになる。ミサエ以外の登場人物も何かおかしい。読んでいて、もっさりとした空気が終始流れていた。

局報われたのだろうか。私は読み終えた今も、喉に何かが引っかかったままのような、消化不良のような中途半端な気持ちでいる。まるで私が絞め殺されたようだ。こんなにも胸がむかむかするなんて、ある意味忘れられない作品になった。

段聞き慣れない単語がいくつか出てくる。例えば「行者大蒜(ぎょうじゃにんにく)」。北海道や青森などで収穫されるにんにくのことだ。また「花咲蟹」は北海道で獲れる子持ちの蟹、「新巻鮭」は寒い地方で獲れた鮭。こういった地方ならではの名産が普通に出てくるのは、その土地への親しみをもたらす。方言も同じだ。

飼いという動物や自然を相手に暮らしてきた著者だからか、文章は丁寧なのに強く猛々しいものがひそんでいる。なんと表現したらいいか難しいが、荒々しく、生臭いのだ。自然界に住む獰猛な動物たちがまるで作品のなかで暴れるかのように。