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『自由研究には向かない殺人』ホリー・ジャクソン|事件を解決するのは真に思い入れが強い人

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『自由研究には向かない殺人』ホリー・ジャクソン 服部京子/訳 ★

創元推理文庫 2022.1.24読了

 

年末から気になっていた本。表紙も雰囲気があってそそられる。ハヤカワミステリランキングを始めとし、このミスや文春の海外ミステリランキングの上位に食い込んでいるこの小説、さすが、とてもおもしろかった。

本でいう「自由研究」とはちょっと違う。日本だと小・中学校での夏休みの課題として出され、基本的には題材は自由なものの、アサガオの成長、昆虫日記など、理科的なテーマを選ぶことが多い。私も自由研究にはほとほと苦労した思い出があるなぁ。

の小説のなかでの自由研究(イギリスのハイスクールでは一般的なのかもしれないけど)は、EPQという自由研究で得られる資格のようなもの。つまり、高校卒業、大学入試に必要な資格試験と並行して独自に行うプロジェクトのことだ。どちらかといえば大学の卒論により近いのかな?

ップが自由研究のテーマにしたのは「5年前に身近で起きた行方不明者(アンディ・ベル)の捜索に関する研究」。アンディ失踪後に自殺をしたサルという男性がアンディを殺害したと誰もが思っているが、ピップにはサルが犯人とはどうしても思えないのだ。高校生が警察顔負けの捜査をするなんて、そして鮮やかに解決してしまうなんてちょっとあり得ない設定なのだが、これが読んでるうちにズブズブとハマってしまう。

国ではヤングアダルト向けの小説になっている。確かにピップは17歳で、考え方も言葉遣いも今風で若者らしさに満ち溢れている。だけど、内容的には結構入り組んでいて、大人向けとしても充分濃いミステリになっていると感じる。

ともと、本文の中で字体を変えたり太字で挿入されるメール、電話での会話、レポートのような類いはそんなに好きではないのだが、この作品に関しては嫌じゃなかった。むしろ、これがあるからこの作品の良さが表れ、効果が最大限に発揮されている。なんせ、自由研究だもんな。

ールやLINEの吹き出しをそのまま頁に落としたもの、お手製の地図や人物相関表、日記を写真で撮ったそのものの画像など、自分もピップと一緒に現実に謎解きをしているみたいに感じられた。この感覚がこの小説の醍醐味かもしれない。読者にわかりやすい推理で、構成やストーリーの進むテンポもちょうどいい。

ンターネットやSNSを駆使した推理は現代小説で当たり前になっているが、この作品では、旅行好きにはお馴染みの「トリップアドバイザー」を使ったり、スマホの「追跡デバイス」や「Google ストリートビュー」を使って居場所を突き止めるなど、色々と具体的で生活感満載。

れを読んだら若い子たちは夢中になるだろうな〜と思う。読書が苦手な人でもこれを読んで読書にハマりそうだ。私は古典的なかたっくるしいミステリが大好物なのだが、そんな私ですらこの小説に夢中になれた。

ちろんこれは作られた物語で、高校生がこんな事件を解決してしまうという突飛な設定なんだけど、読んで心から思ったのは、事件を真に解決できるのは警察だけではないんだということ。被害者や加害者の身近な人、彼らへの想いが強い人が行動してこそ解決するんじゃないかということだ。

ップは本当に愛すべきキャラクターだ。明るく前向きで周りを元気にする。家族や友達想いであたたかい。何よりも聡明で決断力、行動力があるカッコいい女性だ。『女には向かない職業』のコーデリアが高校生の頃はこんなだったのでは?と思うようなひたむきさがある!コーデリアのほうがドライだけども。

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