書に耽る猿たち

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『太陽の季節』石原慎太郎|回想の使い方が絶妙

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太陽の季節石原慎太郎

新潮文庫 2022.2.14読了

 

月の初め、石原慎太郎さんご逝去のニュースが日本中を駆け巡った。昭和・平成を代表する偉人がまた1人、この世を去った。私のなかで石原慎太郎さんは政治家、ことに東京都知事の印象しかない。作家であることはもちろん知っていたが、彼の作品をまだ読んだことがなかった。

原さんは大学在学中に、表題作『太陽の季節』で当時最年少で芥川賞を受賞した。この本には表題作を含めて5つの短編が収められている。

 

太陽の季節

闘、つまりボクシングを舞台にした青春小説である。若者だけにしかない鋭い感性を、社会に対して退廃的にぶつけている。竜哉のいい加減さと自分勝手な行動に、読んでいて歯がゆさと嫌悪感を持ってしまう。

さ故に自分の本当の気持ちに気付かず、わがままに振る舞う姿が赤裸々に、そして生き生きと描かれる。湘南の海、ボート、暴力、セックス。衝撃的な結末には驚いた。

了感は決して良くはない。にも関わらず小説としてはおもしろいと感じた。芥川賞を受賞はしたものの、選考委員たちの意見は真っ二つに別れ、文壇をセンセーショナルに賑わせたらしい。この社会現象すら作家石原慎太郎たらしめている。

 

の4作品の中で私が気に入ったのは『灰色の教室』である。解説を読むと、確かにこれは優れた作品だと絶賛されたようだ。自殺未遂を繰り返す友人を観察しながら生死の意味を見出そうとする義久の心情が淡々と胸に迫る。一方で産まれてくるであろう命についての考察の対比も見事だ。『太陽の季節』に似通った題材ではあるが、竜哉よりも成長した義久に少し安心する。

 

て読み終えて、石原さんは回想の使い方が絶妙に上手いと感じた。主人公が回想する場面を数頁読むと、がらりと心情が浮かび上がり、回想以前の印象ががらりと変わり深みと奥行きが増す。

 

原さんの訃報後、確か見城徹さんが「石原慎太郎という人は政治家である前に作家なのだ」と話していた。私もこの本を読んでその通りだと思った。

にはともあれ、私にとって石原慎太郎さんの書くものは結構好みの文体であった。石原裕次郎さんとの関係を綴った私小説『弟』や、田中角栄の真髄にせまる『天才』も読むつもりである。