書に耽る猿たち

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『ディス・イズ・ザ・デイ』津村記久子|スポーツ観戦することで自己をみつめる

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『ディス・イズ・ザ・デイ』津村記久子

朝日新聞出版[朝日文庫] 2022.2.18読了

 

はサッカーよりも野球のほうが好きだ。普段Jリーグも海外リーグも高校サッカーの試合も観ない。ワールドカップだけは、テレビに張り付いて観るという「にわか」だ。ラグビーもそうだ。ただ先日のワールドカップ予選サウジアラビアとの試合はたまたま観ていて、久しぶりに熱が入った。伊東純也選手がすごかった。

の作品は、サッカー国内2部リーグ(津村さんが考えた架空のチーム)を舞台とした連作短編集である。といっても選手側ではなく、ファン、サポーター側からみた世界。全国色々な地方に本拠地を構えるチーム、スタジアムが登場する。地域に根ざしたチームってやはり良い。

ける展開の試合でいきなり点が入るときの感覚を「全身の血がふっと足に落ちて、しかし同時に体が浮かび上がるような感じ(218頁)」と表現している。野球観戦でも同じだよなぁ、わかる、わかる。私は応援歌やラッパで盛り上がるのはそんなに好きではないのだが、自然発生的に沸き起こる歓声と雰囲気には体がぞくぞくする。ピンチを凌いだピッチング、サヨナラ勝ちの場面など。サッカーでもきっとおんなじだろう。

く一緒に観戦していた友達がそのスポーツへの興味をなくしてしまうのは、なんとも寂しい気分になる。それが家族だったら余計だろう。でも、この作品の中にあるほとんどの人は、1人観戦だ。仲良く応援するのも楽しいけど、意外と1人も悪くないし、結構1人で来ている人は多い。

ッカー観戦を通しているが、これは市井の人々の日常をすくった心温まるストーリーだ。ひとつひとつの短編の中に、ある人の日常の悩みや不安定さが描かれている。ラストのワンセンテンスが絶妙であり、やはり津村さんは短編が上手いよなぁと思う。

ァンといっても、決して熱狂的な人だけが観戦に行くわけでもなく、色々な人たちがいるんだよなぁ。むしろこの作品の中で熱狂的なファンはいない。ゆる〜いファンで、スタジアムに通うその行為が自分自身をみつめるかけがえのない機会になっている。

通ならサッカーを題材にした小説を読むことはないのだけれど、津村記久子さんの書くものなら読もうと思い、読んでやはり正解だった。サッカー好きはもちろん、そうでない人も、スポーツに興味がない人でも、心に響いてくるものがあるはずだ。

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