書に耽る猿たち

読んだ本の感想、本の紹介、本にまつわる話

『ヌヌ 完璧なベビーシッター』レイラ・スリマニ|信頼しあえる他人との関係は少しずつ築いていくしかない

f:id:honzaru:20220305161946j:image

『ヌヌ  完璧なベビーシッター』レイラ・スリマニ 松本百合子/訳

集英社集英社文庫] 2022.3.5読了

 

ヌとは人の名前ではなくてベビーシッターのこと。フランスで乳母の意味をもつ「ヌーリス」が子供言葉のヌヌとなった。日本ではベビーシッターはあまり馴染みがなく、子供を家の外である保育園や託児所に預けるのがほとんどでである。フランスでは育児を完全にヌヌに託し、ヌヌが家事全般を担うこともあるようでとても重宝されているようだ。

ちゃんが死んだという衝撃的な事件から幕を開ける。2人の子供がヌヌによって殺されたのだ。何故幼い幼児が無惨に殺されなければなからなったのか、この家庭に何があったのか。

末がわかっているからこそ、どうしてこうなったのかを知りたいと思い、最後まで頁を捲る手が止まらなかった。ルイーズという超有能なヌヌが何故このような狂気に走ったのか、ルイーズがどんな生い立ちで何を思ったのかは、読めばなんとなくはわかるのだが肝心の理由ははっきりとしない。おそらく、本人にも明確な理由はわからないのだろう。著者は読者に、加害者はもちろん被害者家族のことも「考えよ、想像せよ」と言っているのだ。

い主と使用人という関係性は難しい。家の鍵を預け全てを曝け出すのだが、人間関係までも深入りしてはいけないのではないか。しかし、どこかで境界線を引くのも難しい。まだ純粋な子供を託すということは、嘘や不信感があってはならないのもまた事実だから。信頼できる他人を見つけることは難しい。日々の生活のなかで徐々に良い関係にしていくしかない。

者のレイラ・スリマニさんの淡々とした鋭利な刃物のように鋭い文体がより凄みを増す。実際にフランスで起きたヌヌによる子供殺害事件をモチーフにしてこの小説を書いたとのことだ。実際に日本でも同じような事件はある。フィクションとは思えないほどリアルで心の奥の方が痛くなる。