書に耽る猿たち

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『朱より赤く 高岡智照尼の生涯』窪美澄|苦難に満ちた波瀾万丈の人生

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『朱(あか)より赤く 高岡智照尼の生涯』窪美澄

小学館 2022.3.6読了

 

い頃叔母に育ててもらったみつ(後の高岡智照)は、12歳の時、産みの父親に騙され舞妓になるよう売られてしまった。舞妓、芸妓を経て、社長夫人になり、さらに女優や文筆業まで行う。一方で多くの男性に翻弄され蔑まれお金で売られていく。情夫のために指を詰めたり、生きる意味を無くし自死をしようともする。本当の愛には恵まれなかった彼女が行き着く安寧の先は尼だった。尼になるまでの人生が告白文として書かれている。

の時代に身寄りのない女性が一人で生きて行くことは困難だった。持って生まれた人も羨やむ美貌で身体を売り生きていくことは出来たが、この美貌が仇となる。どんなことも極端過ぎると幸せにはなれないのだろう。それでも強く生き抜く彼女の姿に同じ女性として心を打たれ逞しく輝いて見えた。

中に、箱根・塔ノ沢の「福住楼」という旅館の名前が出てきた。何度か箱根を訪れたことはあるが、その中で「福住楼」はとても居心地が良く印象に残っている。こじんまりとした宿ではあるが、温泉の湯、料理、部屋の調度品に至るまで全てが良い塩梅で落ち着いた。確か多くの文豪が愛した由緒正しい宿であった。

美澄さんの他の小説に比べると、少し軽めで読みやすいように思えた。内容というよりも文章自体がさくさくと読めるのだ。この高岡智照の苦難に満ちた波瀾万丈の生涯であるならば、もっと深く掘り下げた長編になりそうだと思うのに、なんだか勿体ない。どうやら小学館の文芸誌掲載の連載小説だったので紙面の分量の問題もあったのだろう。

の小説の主人公である高岡智照(ちしょう)は実在の人物である。本を読み終えてからWikipediaを参照すると、小説以上(小説には書かれていないことも多い)に波瀾万丈な人生に驚き、さらに98歳まで生き抜いた大往生にも目を見張った。38歳で仏門に入り、その後は60年間尼として生きた彼女。瀬戸内寂聴さんは『女徳』という小説でこの智照尼のことを書いているようだ。そちらも読んでみようと思う。

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