書に耽る猿たち

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『死の味』P・D・ジェイムズ|ダルグリッシュの過去に一体何が?

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『死の味』上下 P・D・ジェイムズ 青木久惠/訳

早川書房[ハヤカワ・ミステリ文庫] 2022.3.15読了

 

ーデリアシリーズがおもしろかったので、ダルグリッシュ警視ものに手を出してみた。犯人や動機、トリックを探るミステリなのに、私にはどう考えても濃密な文学作品の範疇に思える。過去に読んだコーデリアシリーズ2作と比べて、長さもあるが故に内容も構成もさらに混み入っており、まぁおなかいっぱいになった!

会の聖具室で、元国務大臣のポール・ベロウン卿と浮浪者ハリー・マックの死体が発見された。殺人なのか自殺なのか。2人を結びつけるものはない。ダルグリッシュ率いる警察のチームは捜査に乗り出す。相棒の2人は、過去にも仕事をしたことのあるマシンガム主任警部と、初登場らしい女性警部ケイト・ミスキン。このミスキンがなかなかカッコいい女性である。

会の司祭であるバーンズ神父は、ベロウン卿の腕に「聖痕」があったという。この聖痕という言葉が聞き慣れなかったのですぐに調べたところ、磔になったイエス・キリストの腕についた傷、または信者の身体に現れるとされる類似の傷の意味がある。「奇跡の顕現」とも言われるそうだ。

識のキナストンが死体に向かい自らの任務を遂行する姿を見て、ダルグリッシュは敬意を払う。キナストンの姿が優雅にも映る。ストーリーにはほとんど関係のない脇役についても細かく記されるから、まるで重要人物であるかのように彼らの過去を暴き想像してしまう。これが作品全体を深淵な世界に仕上げているのだろう。目眩がするほど濃厚かつ重厚。

ールの母レディ・アーシュラに関する描写では「皮膚の下の頭蓋骨の光沢を予想させて」とあり、この単語を出すなんて(コーデリアシリーズ2作目のタイトルが『皮膚の下の頭蓋骨』である)…と思わずニヤリとしてしまった。さらに作中に「コーデリア・グレイ」の名前も一度登場する。こういうのがコアなファンがいる証だろうなぁ。

はいえ肝心のアダム・ダルグリッシュの人となりはベールに包まれているような気がする。私がこのシリーズを読むのが本作が初読みだからだろうか?気になるのは、ダルグリッシュが死んだベロウンに羨望をおぼているシーンがあること。辞職をしたらどうなるのかと自らに問いかけもする。過去に何があったのだろう?

当はシリーズ1作目の『女の顔を覆え』から順番に読みたかったのだが、中古では高額なものしか見つからず(もしくはかなり古びた本)、先月何故か本作の新版が出たから購入した。SNOWLOG (id:SNOWLOG)さんおすすめの『黒い塔』はもちろん、ジェイムズさんの作品はコンプリート読みしたいと思っている。読むのに結構力を要しぐったりするのに何故かハマっている。

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