書に耽る猿たち

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『Blue』葉真中顕|知りたい欲求そのままに展開される

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『Blue』葉真中顕

光文社[光文社文庫] 2022.3.21読了

 

真中顕さんの作品は、昨年刊行された『灼熱』という小説がとても評判が良いので読みたいと思っていた。単行本を購入しようか思いあぐねていたら、ちょうど先月この作品が文庫新刊として書店に並んでいたので迷わず手にした。

梅事件と呼ばれる一家惨殺事件は、4人を殺害したのちに風呂場で自殺または事故死したとみられるこの家の次女夏希の犯行と思われていた。しかし警察は、公表していない別人が現場にいたという形跡を証拠として掴んでいた。同時進行で進むBlueの章が差し挟まれる。Blueとは一体誰なのか。恐るべしサイコキラーなのか。

庫本でかなり厚めの本なのが、予想以上に読みやすい。どうしてこんなに読みやすいのかと考えてみると、著者の流れるような筆致はもちろんだが、ミステリなのに読者が犯人や動機を考える暇がないことに気付く。なんというか、この人のこの行動が疑わしいと思ったら、次の章でその人物自ら自白をするような感じ。だから、するすると知りたい欲求そのままの順番に読める。それにより疲れ知らずで読めるのだ。

直なところ、小説を読んでいるというよりはドラマか映画を観ているような感覚になった。個人的には柚木裕子さんや太田愛さんが書く小説に近いと感じる。映像化しやすくエンターテイメント感満載。

成史を社会学的側面からなぞったような作品だ。私も平成という時代をまるっと生きているから、全ての出来事が印象の濃い薄いはあるとはいえ走馬灯のように駆け巡った。文化的、政治的、経済的、国際的側面、そして震災や気候変動、事件やテロに至るまで、数えきれない要素をうまく取り入れてまとめあげる手腕には舌を巻く。

希と一緒に住んでいたことのある女性が語るE.G.スミスのルーズソックスとHARUTAのローファー、プロミスリングという1990年代に流行った高校生のスタイルが出てくる箇所を読んだ時は懐かしいなぁと思った。E.G.スミス、よく売ってたなぁ〜。ちょっと高額だったから手が出なかったし、そもそもあれは細長い脚でないと似合わないソックスだった。    

会学者でありコメンテーターでもある古市憲寿さん著『平成くん、さようなら』もこれに近いのだろうか。あちらはミステリではないけれど。古市さんの本もまだ読んだことがない。最新刊は長編小説のようで少し気になっている。