『異常(アノマリー)』エルヴェ・ル・テリエ 加藤かおり/訳
早川書房 2022.3.28読了
この小説は、フランス本国で100万部超え、2020年にゴングール賞を受賞されている。ゴングール賞とはよく聞くけれど、フランスの最高峰の文学賞らしい。2016年には、先日読んだレイラ・スリマニさんの『ヌヌ 完璧なベビーシッター』が受賞となった。
殺し屋のブレイクの話から唐突に始まり、小説家兼翻訳家であるミゼル、映像編集者リュシー、、など数人の紹介が続き、これは一体どんなストーリーなのだろうと訝しみながら読み進める。所々に飛行中のボーイング機を操縦するパイロットのやり取りが挟まれる。
こんな展開は初めてだ。どうしたらこんなストーリー、構造を思い付くのか、著者の頭の中はどうなっているのだろう?いつの間にか異常事態が起こっていることに気付く。それも国際問題にまで発展する。ノーベル賞を受賞した各分野の専門家、科学者たちが集められる。
この作品は多くを語るとネタバレになってしまうから、何も情報なしで読み始めるのが良い。SF作品に入るのだろうが、ユーモアや文学性もふんだんにあるためSFが苦手な人でもかなりとっつきやすい。途中、私にはついていけない部分も多少あったけれど、あっという間に終盤になる。哲学的で宗教的、知的興奮が高まる作品だった。
確率論研究者エイドリアンと位相幾何学研究者メレディスの奔放で直球な愛情表現は読んでいて気持ち良い。こんな風に愛し合えるなんて、思いっきり相手のことを好きだと言えるなんて素晴らしいなぁと。登場する人物それぞれの人生を読むと、現代人が抱える悩みそして希望がうかがえる。
英語で「異常」はアノマリー(anomaly)であると知っていたが、フランス語でも「異常」はアノマリー(Anomalie)らしい。この不穏かつシニカルな作品にぴったりの響きだ。