書に耽る猿たち

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『暁の死線』ウイリアム・アイリッシュ|若い2人の推理と行動のプロセスを楽しむ

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『暁の死線』ウイリアムアイリッシュ 稲葉明雄/訳

東京創元社創元推理文庫] 2022.4.7読了

 

日読んだアイリッシュ著『幻の女』に心を奪われたので、2作目にこの作品を読んでみた。同じくタイムリミットサスペンスと呼ばれており、アイリッシュ氏の代表作のひとつと言われている。

対面の相手で、趣味があう人、嗜好が合致する人とは話が合い盛り上がる。中でも一番ぴたりと合うのは同郷の人ではないだろうか。住んでいた街が同じ、行きつけの飲食店が同じ、通った学校すら同じであれば自然と相手のことを知ったかのような気持ちになる。ダンサーのブリッキーとクィン、この若者2人の偶然の出逢いから始まり、犯罪捜査にまで乗り出していくストーリーである。

リッキーが初めて死人を見た時の描写には鬼気迫るものがある。普通に生きていて、病に瀕した人が死にゆく姿以外で死体を見ることはまずない。こと殺人となるともっとない。死体の髪の毛だけは艶を帯びているのは、死んだ後ですら髪は伸び続けるという現象を表している。髪の毛の生命力って、食べる直前までエビやイカが最後まで動くあの姿(いわゆる踊り海老のような)と同じなのかしら。

察でも探偵でもないのに、死体を目にして悲鳴をあげないなんてことあるだろうか。素人が推理をして実際に捜査をし始めることなんてあるだろうか。他にも強引な展開やそんな偶然が重なるかなと、あまりにも現実離れしてる感は否めないのだが、それでも十二分に楽しめた。

人は誰なのか、動機は何なのかというのは実はどうでもいいのがこの小説だと思う。2人の推理と行動のプロセスを楽しむのが真骨頂なのだ。ちょっと期待しすぎてしまったからか『幻の女』のように圧倒されなかったのが正直なところだ。『幻の女』はもっと文学的だったからなぁ。

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