書に耽る猿たち

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『運命の絵 もう逃れられない』中野京子|強く印象に残る絵

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『運命の絵 もう逃れられない』中野京子

文藝春秋[文春文庫] 2022.4.13読了

 

3年近く前に、東京・上野で開催された「コートルード美術館展」を訪れた。まだコロナが始まる前で美術館はどこも混雑しており、本当は近くで開催されていた別の美術展を観に行くつもりが、2時間待ちとのことでしぶしぶながらこちらの美術展にしたのだ。見どころのある展示が多く、期待していなかったこともあってか大満足だった。特に目と心を奪われたのが、展示の目玉であったエドゥアール・マネ作『フォリー・ベルジェールのバー』である。それがこの本の表紙の絵(実際は大型のサイズなのでごく一部)だ。

ーカウンターでお酒を提供する若い美女に目が行くが、何よりも絵の構成が不思議だった。鏡に映っているのに定位置と違うものが映っている。画家のマネ自ら狙いをもっての演出なのだろうが色々と想像を掻き立てられ、今でも強く印象に残っている。私は鑑賞する際は音声ガイドを借りず自由に観るのだが、この本で中野京子さんの解説・考察を読みとても理解が深まった。

にも16名の画家と作品について、カラー写真とともに解説が添えられている。私はゴーギャンが大好きなので、彼の絵についての章を楽しく読んだ。とはいえ、モーム著『月と六ペンス』やリョサ著『楽園への道』を読んでいるので、真新しい内容はなかったかな。一度だけ実物を観たことがある『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』は死ぬまでにもう一度観たい。

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には、最近何故か気になるターナーの絵についての章が興味深かった。あのもやがかかったような不思議なタッチと錆のような色彩が脳髄に訴えかけてくる。また、何度か目にしているローザ・ボヌール(代表作が『馬市』、動物画というジャンルを見出いた)が女性であると知り驚いた。あんなに荒々しいタッチなのに。

の画家や作品に対しても中野さんの豊富な知識と鋭い考察が興味深い。文章もキャッチーで読みやすい。絵画の入門にはとても良いと感じた。中野さんが既に刊行した本にも触れられているので、全て順番に読んだ方がより楽しめるかと思う。

は作家の中島京子さんと中野京子さんを混同しており、つい最近まで同一人物だと思っていた…。中島京子さんが美術にも造詣が深いと勘違いしていたので、中野さんに失礼極まりなく申し訳ない限りだ。絵画エッセイは、気軽に読めて目の保養にもなるからたまには良い。