書に耽る猿たち

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『回転木馬のデッド・ヒート』村上春樹|ロマンチックでキザなスケッチの数々

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回転木馬のデッド・ヒート村上春樹

講談社講談社文庫] 2022.4.27読了

 

性に村上春樹さんの文章に触れたくなった。読むたびに、他の作品で読んだことがあるような既視感(既読感)に遭遇したり、お得意のコケティシュな女の子がまたまた出てきたなと思う。毎回毎回思う。いつも感じることは一緒なのに、どうしてかふとしたタイミングで無性にあの文体が愛おしくなり、春樹ワールドに自ら入り込みたくなるのだ。

はいえ、村上さんの本はほぼ全て読んでいる。そろそろ2巡目かなと思っていたら、まだ未読のこの短編集があった。村上さんはこの本に収められた文章を「スケッチ」と言う。小説でもノンフィクションでもないから。村上さんは人の話を聴くことが得意で、ある種の我慢強さというフィルターを通して文章を作り出しているそうだ。とにもかくにも、前書きで自分のこれから書く文章について語るのがこれまた村上さんらしい。読者に読むための心構えを呈している。

れぞれの短編は、普通ならあり得ない話なのに、ひょっとしたら起こり得るのかもと思わせる何かがある。『タクシーに乗った男』で画廊の女主人がかつて出逢った運命の絵についての話や、『嘔吐1979』で理由もわからず40日間嘔吐と電話が続いた話もそう。村上さんが誇張して書いているとはいえ、誰かの体験をそのまま聞いているようでそれが心地良く入ってくる。

ての短編が私にはロマンチックに思える。身体が不自由な親子のことを描いた『ハンティング・ナイフ』は危うい香りがするのに、何故だかロマンティシズムが混じっている。村上さんの書くものが苦手だという人は、このロマンチックさを格好つけているとかキザだとか表現するが、これがクセになるんだよなぁ。

うして村上さんの書くものはこうも人の心を鷲掴みにするのだろう?村上さんの本は多くの国の言語に翻訳されているから、ここには万国共通の、人類共通の魔力が潜んでいるのかもしれない。薄い掌編集であるが、おもしろく読め、何より村上ワールドを充分に堪能できた。

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